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家賃の滞納が起きた場合、オーナーにとっては家賃収入が途絶えてキャッシュフローを悪化させるだけではなく、家賃を回収するため法的手続きに発展する可能性もあるため、不動産投資を行ううえでもっとも避けるべきリスクのひとつとされています。本コラムでは、家賃滞納が起きた時にオーナーがすべきことや、してはならないこと、強制退去の流れ・費用について詳しく解説します。

強制退去にできる条件

(画像:PIXTA)
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家賃滞納は、賃貸借契約における賃借人の債務不履行に該当するため、賃貸人は相当の期間を設けて催告をし、この期間内に履行がなければ、契約を一方的に解除することが可能です(民法541条)。

 

しかし、賃貸借契約を解除されると、賃借人は住居を失うことになり、多大な不利益を被ってしまいます。そこで法律上、不履行が「軽微」な場合には、賃借人は一方的な契約解除ができないことになっています(同条ただし書き)。

 

(催告による解除)

第五百四十一条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。出典:e-Govポータル (https://www.e-gov.go.jp

 

賃貸借契約において賃借人の地位は厚く保護されており、賃貸人による解除が認められるかどうかはケースバイケースです。以下では、どのような場合が「軽微」な不履行に当たらず契約を解除できるのか、過去の裁判例を挙げて紹介します。

 

家賃を3ヵ月以上滞納していること

契約を解除するには、債務の不履行、すなわち家賃の滞納があったことを証明する必要があります。しかし、家賃1ヵ月分の滞納のみで解除を認めるのは、賃借人にとって酷であると判断される場合があります。

 

例えば、3ヵ月に渡り複数回催促しているが、家賃が支払われない場合には強制退去が認められる傾向にあります。3ヵ月の滞納で契約解除が認められた事例もありますが、単なる滞納期間だけでなく、賃貸人と賃借人との信頼関係も重視されています。賃貸人と賃借人との信頼関係が損なわれたと判断されるほど長期間に渡って滞納が続いた場合に、初めて賃貸人は解除権を行使できるとされています。3ヵ月の滞納で解除を認めた判例もありますが、一般的には6ヵ月以上の滞納が解除の目安とされています。

 

また、賃借人との間で「一度でも家賃を滞納すれば催告なしで契約を解除する」との特例(無催告解除特則)を設けていたとしても、無催告での解除を認めることが不合理ではないような事情がある場合にのみ解除ができると解釈されています。

 

賃貸人との信頼関係が破壊されていること

賃貸人による契約の解除が認められるためには、賃借人・賃貸人の間で、信頼関係が破壊されていると判断される必要があります。具体的には、賃借人による以下のような行為があれば、信頼関係が破壊されたと評価される傾向にあります。

 

  • 3ヵ月以上にわたって家賃滞納が続いている
  • 賃貸人による督促を無視している
  • 相当程度、賃貸物を破壊している
  • 相当程度、賃貸物を無断で増改築している
  • 賃貸物を無断で転貸している
  • 賃貸人が被る不利益が甚大である(家賃が高額な場合など)

 

もっとも、賃借人と賃貸人の信頼関係が破壊されているかどうかは、不履行の程度、賃借人の行為態様、賃貸人が被る不利益などを総合的に考慮して判断される点に注意が必要です。

 

例えば、賃借人が交通事故に遭って一時的に就業できないという事情があり、そのことを真摯に賃貸人に説明しているなど不可抗力ややむを得ない事情がある場合には、家賃の滞納が3ヵ月以上に及んでいたとしても、未だ信頼関係が破綻していないと判断され賃貸人による解除が認められない可能性もあるでしょう。

 

なお「信頼関係」には「賃借人の、賃貸人に対する信頼関係」も含まれるため、例えば台風で賃貸物の一部が損壊したのに賃貸人がこれを放置し、賃借人が自費で修繕していたなどの事情があると、賃貸人による契約解除は認められにくくなってしまいます。

 

契約解除について詳しくは、下記の記事も参考にしてください。

 

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