学生生活を終えても社会に踏み出せず、自室に閉じこもる――ひきこもりは単に個人の問題ではなく、現代社会が抱える深刻な課題の一側面です。就職氷河期、不安定な雇用、競争社会のプレッシャー……。様々な要因が若者たちを社会との接点から遠ざけ、ひきこもりが長期化することも。本記事では、岡本圭太氏の著書『ひきこもり時給2000円』(彩流社)より、同氏の実体験からひきこもりの当事者の葛藤をみていきましょう。
就職に失敗。自室に閉じこもった「早稲田大卒・氷河期世代の当時24歳男性」…「たった5文字の言葉」に救われたワケ ※画像はイメージです/PIXTA

「診断」は救いの言葉

そののち、僕は「ひきこもり」という言葉を知るに至る。

 

たまたま読んだ雑誌に載っていたという、まったくの偶然の結果ではあったが、この言葉を知ることができて本当に幸運だった。この言葉に出会っていなければ、その後の一連の動きを起こすことはできなかっただろう。このキーワードを頼りに、僕は少しずつ自分の状態を定義するチャンスをたぐり寄せることができた。

 

病院に行って医師から「ひきこもり」という言葉をもらったことで、僕はひどく救われた思いがした。そうか、やっぱり自分は「ひきこもり」だったのだ、と。もし自分が「ひきこもり」というものに属するのならば、自分と同じような人たちに会って話をすれば、何か助かるためのヒントが見つかるかもしれない。この救いのない沼地から抜け出せるかもしれない。その光明が期待から確実なものへと変化した時、僕は心の底から安堵した。自分の進むべき方向が目の前に浮かび上がってきた。

 

あとから振り返ってみてわかったことだけれど、この「ひきこもり」という名前を与えられた時点で、僕の悩みは半分解決したのだ。この「名前の付与」という一件は、僕にとって、それぐらい大きな出来事だった。

 

僕は考える。診断というのは救いの言葉であるべきなのだと。ただのラベリングやレッテル貼りなどではなくて。

 

(2013年執筆)

 

 

岡本 圭太