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「音が気になる」「話し相手がいない」…予想外の暮らしにくさ
しかし、実際に暮らしてみて、修さんにはいくつかの違和感が生まれていたようです。
「夜、隣の部屋の音が気になって眠れないんだ。廊下の声やテレビの音がずっと聞こえてくる」と、修さんは打ち明けました。施設はバリアフリー設計で清潔感もありましたが、防音性は一般のマンションほどではなかったのです。加えて、もうひとつの理由が「話し相手がいない」というもの。入居している人は、いわゆる富裕層と呼ばれている人たちばかり。医者に弁護士、会社経営者――バックボーンが修さんとはまったく異なり、雑談や世間話が成立しにくかったといいます。
「一日誰とも話さない日があるんだよ」と修さんはポツリ。設備は整っていても、心地よい人間関係までは保証されなかったのです。
このような「入居後のギャップ」は、決して珍しい話ではありません。株式会社Speeeが2023年に行った調査では、「現在入居している施設は、何施設目ですか?」の問いに対し、「1施設目」が61.6%と多数を占めるものの、「2施設目」が28.4%、「3施設目」が7.2%。また転居の理由は「特養などに入所するための一時的な入居だった」が33.3%と最多だったものの、「介護スタッフ・施設職員への不満」が18.8%、「介護サービスの質が低い」17.7%など、入居してみたら――と不満を募らせ転居を決意するケースは少なくありません。
修さんの転居希望も、「ワガママ」ではなく、「暮らし方の再考」といえるかもしれません。直樹さんは、父の話を聞いて一瞬「もう勘弁してくれ」と感じたものの、仕方がないと考える部分もありました。
「やっぱり、いくら高級でも合う/合わないはありますよね」
「老人ホーム=安心」とは限らないという現実。 入居前に住み心地や人間関係まで完全に把握するのは難しく、事前に見学するだけではわからない要素も多く存在します。また、費用についても、「高い=良い」と考えてしまうと、思わぬミスマッチを招くことがあります。大切なのは、その人にとって本当に必要な“機能”があるかどうかという視点です。
「まあ高級老人ホームは父には合わないことがわかってよかったです」
修さんは改めて「自分に合う老人ホーム」を探しています。
[参考資料]