
築40年の戸建て住宅、迫る「大規模修繕」…住み続けるために必要な出費とは
ローン完済まであと3年――完済が見えてきましたが、今度は別の現実が突きつけられます。自宅の老朽化です。野口さんの家は、購入からすでに40年近くが経過。築年数に応じて各所に不具合が出始めています。
「外壁が一部剥がれていたり、水回りの調子が悪かったり……業者からは、そろそろ大規模な修繕の時期に来ているといわれました」
外壁の塗装、屋根の防水工事、キッチンや浴室のリフォーム、配管交換など、必要とされる工事の見積もりをとると、最低でも250万円以上。しかも、建物の状態によってはそれ以上になることも珍しくありません。定年後の限られた収入で、このような金額を捻出するのはかなり厳しい状況です。
「いっそ、売ってしまって賃貸に引っ越そうかとも検討しました。でも、それも簡単じゃない」
高齢者の住宅確保は難しいというのは、よく耳にする話です。株式会社R65が全国の賃貸オーナーを対象に行った『高齢者向け賃貸に関する実態調査』によると、高齢者の入居を「受け入れていない」賃貸オーナーは41.8%。一方で「積極的に受け入れている」オーナーは19.0%にとどまりました。家主が高齢者に家を貸したがらない理由……それは保証人の問題や、健康・介護、孤独死リスクへの懸念などから。しかも、お金があろうとなかろうと、高齢者が家を借りられないという状況は変わらないといいます。
「お金があっても貸してもらえないなんて思いもよりませんでした。賃貸に移るにも、高すぎる壁があると聞いて、あきらめざるを得ませんでした」
つまり、ローンを返し終えたあとも、「この家に住み続けるしかない」状況が待っているのです。
「死ぬまでローンを払い続ける……そんな絶望的な状況が現実になろうとしています」
国土交通省『令和5年度 住宅市場動向調査』によると、新築注文住宅を建てた世帯主の平均年齢は44.8歳。30年近くのローン返済を抱えてマイホームを実現しています。当初、「ローン完済は70代」というのが一般的なわけです。
その後、「繰上げ返済を駆使し、定年前には完済」とか「年金を受け取る前には完済」と計画する人も少なくありませんが、野口さんのように想定通りにいくとは限りません。野口さんは当初、「65歳までは問題なく働ける」と思っていたものの、現実は違いました。健康寿命という言葉がありますが、仕事を続けられる期間は意外に短いこともあるのです。
老後資金や住宅ローンの返済計画において、よくある誤算のひとつが「働き続ける前提」です。再雇用や嘱託勤務制度の普及により、「65歳まで働ける」という思い込みが定着しつつあります。しかし、現実には病気、介護、家庭事情などによって離職するリスクも考慮しておく必要があるのです。
[参考資料]
日本年金機構『繰上げ受給』
国土交通省『令和5年度 住宅市場動向調査』