(※写真はイメージです/PIXTA)
老後の生活費は想像以上に変動する
「何かの間違いではないですか?」
そうホームに問い合わせを入れようと思いましたが、ふと老人ホームから「食材費や光熱費の高騰に伴う一部料金改定について」という書面が届いていたことを思い出しました。開封した記憶はあるものの、「このご時世、仕方ない」と思い、そのままにしていたといいます。
改めて確認してみると、当初23万円台だった月額利用料は引き上げられ、月27万円近くになっていました。内訳を見ると、家賃や管理費に加え、食費・介護サービス費がどんと上昇していました。さらに認知症が進み、見守りの頻度が増えたことによる追加料金も加算されていたようです。
稔さんの年金は現在も月20万円前後です。毎月10万円ほどの不足分は、稔さんの預貯金から取り崩して支払われています。その額が倍になったということは、「90歳までは払っていける余裕がある」という稔さんの言葉通りにはいかないということを意味しています。
株式会社LIFULL/LIFULL 介護『介護施設入居実態調査2025』によると、老人ホームの月額費用は「10万円台」が最多で33.6%。続いて20万円台が27.3%で、合わせて約6割を占めています。一方で株式会社TRデータテクノロジーが2023年に行った調査では、対象となった法人の26%が月額費用の値上げを行ったと回答しました。また2024年8月から、介護施設の居住費の基準費用額が1日当たり60円引き上げとなり、多くのホームで値上げが実施されたようです。それに加えて、昨今の物価高と人手不足による人件費の上昇も、ホーム運営に大きな影響を及ぼしています。老人ホーム利用者の費用負担は年々増しているのです。
剛さんは、父の老後について「安心できる体制が整っている」と思い込んでいました。本人が施設を選び、自分の年金でやりくりしていたため、深入りしなかったのです。しかし実際は、見えないところで毎月の出費は膨らんでいました。
老人ホームからの費用引き落としは一見すると「自動化された固定費」に見えますが、その内訳や変動を定期的に把握しない限り、負担は知らぬ間に大きくなっているケースがあります。値上げの情報は事前に説明などを通じて通達されるので、しっかりと把握しておくことが大切です。
物価上昇の波は、高齢者の生活にも確実に影響を及ぼしています。年金額はインフレに即して増額されるわけではなく、過去の生活設計だけでは対応できない局面が増えています。老人ホームの費用に限らず、医療費、生活費、各種サービス利用料……高齢者の暮らしは、想像以上に「流動的」であるという現実があります。
親が元気なうちに生活設計や支出の構造を共有しておくこと。子世代が家計状況を把握しておくだけでも、思わぬトラブルを防ぐことにつながります。
[参考資料]