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会社のしがらみから解放されたいと早期退職を決断
大手IT会社に勤務していた大野隆さん(仮名・57歳)。さかのぼること2年前、早期退職制度に申し込むことを決断しました。勤めていた会社では、技術革新のスピードに対応するため、人員の新陳代謝を促進する目的で早期退職制度があり、退職金が割増になる特典がありました。大野さんの場合、60歳で退職する際の想定退職金の1.5倍強の、5,000万円の退職金を受け取れることになっていました。
【大卒サラリーマンの平均退職金】
・定年…1,896万円(月収換算36.0ヵ月分)
・会社都合…1,738万円(月収換算27.9ヵ月分)
・自己都合…1,441万円(月収換算30.3ヵ月分)
・早期優遇…2,266万円(月収換算39.9ヵ月分)
出所:厚生労働省『令和5年就労条件総合調査』
大野さんが早期退職を決めたのは、退職金の割り増しのほか、もうひとつ、「もう会社のしがらみから解放されたい」という気持ちからでした。変化のスピードが速い業界で、常に仕事に追われているという感覚があり、ポジション的にも重責を担っていました。そんな日々からいったん離れ、「これからは趣味の旅行や好きなことをして、家族と過ごす時間を大切にしよう」と心に決めていました。もちろん、その決断には、年齢や健康も少し意識していた部分もありましたが、何よりも「自由」を手に入れることが最も大きな理由でした。
退職は社内でも大きな話題になりました。引き留める声もありましたが、最終的には第二の人生に向けて、気持ちよく送り出してくれました。退職後、最初の数ヵ月は時間に追われることなく、その日やることを朝起きてから決め、現役時代には難しかった長期の旅行に出かけ、家族だんらんの時間を楽しむ……思い描いていた通りの日々を過ごしていました。
しかし、そんな夢のような時間はすぐに終わりを迎えます。次第に両親の健康状態に変化が生じてきたのです。79歳になる母親が体調を崩し、82歳になる父親には認知症の兆候が見え始めました。「最初はちょっとした不調だろう」と軽く考えていた大野さん。しかし、母親の体調は日々悪化し、父親の症状も徐々に進行していきます。そして病院の診察を受けるたびに、専門的な介護が必要だという現実を告げられます。