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初めての投資で損失。何とかしようと考えて
最初に手を出したのは、まさに銀行が提案した定期預金と投資信託を組み合わせた商品でした。確かに、定期預金の金利に少し不信感を覚えていた柴田さんにとって、投資信託での運用は魅力的にみえたのです。最初は、比較的安全な債券型の投資信託を選びましたが、徐々に運用成績が思わしくなくなってきました。数カ月後には、利回りが予想を下回り、元本割れのリスクが現実味を帯び始めます。
「銀行が推奨する商品だから安全だと思ったのに、どうしてこんなことに……」。ここで損失を取り戻したいと考えた柴田さんは、銀行が勧めるファンドラップに投資することを決めました。銀行が投資家の代わりに管理し、分散投資を行ってくれる。銀行の担当者からも「この商品なら安定して運用できますよ。専門家が管理しますから」と太鼓鼓判。しかし、この「専門家が管理する」という言葉が、柴田さんを誤解させました。銀行が提供するファンドラップでも、実際にはリスクが伴う投資が含まれており、個別の運用内容については限られた情報しか得られませんでした。結果的に、運用成績は期待外れで、柴田さんはまたしても資産を減らしてしまうことになりました。
「このままでは終われない……」
もう銀行は信用できないと、他の投資商品に目を向けます。
【60代に聞いた「元本割れの経験」と「元本割れの経験の受け止め方」】
■元本割れの経験がある
「はい」…41.2% 「いいえ」…58.8%
■元本割れの受け止め方
・自分の相場についての予想が外れたので仕方がない…74.1%
・自分が元本割れするリスクをよく理解していなかったのだから仕方がない…15.9%
・相場の変動によって元本割れするリスクを金融機関が十分に説明しなかったからだ…4.8%
・著しい誤解を招く広告、勧誘を金融機関から受けたためだ…5.2%
出所:金融広報中央委員会『令和5年度 家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]』
柴田さんは、たまたまネット広告で目にした「高利回り」という言葉につられ、FXや暗号通貨といったリスクの高い投資商品にも手を出します。これが功を奏したのか、少しずつ利益を上げることができ、自信につながりました。しかし、そんなうまい話はありません。相場の動きに過剰に反応してしまい、一度損失が出ると、連鎖に次ぐ連鎖で損失は拡大の一途をたどります。結果、年金の受け取りが始まるころには、退職金は当初の8分の1になりました。
退職金がみるみる溶けていく様を見て、「こんなバカなこと、あるか……」と本気で頭を抱えたという柴田さん。退職金に加えてコツコツと積み立ててきた預貯金に手を出さなくてよかった、自制できてよかったと胸をなで下ろします。
「よく教員は世間知らずと揶揄されることがあるのですが、その典型でしたね、私は」と反省を口にする柴田さん。定年後の資産運用においては、急激な利益を求めることなく、安定した運用を心がけることが必要です。リスクの高い商品に飛びつくのではなく、自分が理解できる範囲内での運用を選ぶことが、老後の生活を守るためには不可欠だといえるでしょう。
[参考資料]
金融広報中央委員会『令和5年度 家計の金融行動に関する世論調査