
親を介護施設に入れる覚悟…しかしお金の問題が立ちはだかる
お金の心配は隆さんが繰上げ受給することでほぼなくなりました。しかし、新たな問題が勃発したのです。それは隆さんの健康不安。元々腰に持病を抱えていた隆さんは、介護負担により悪化。このまま体を酷使すると、自身も介護が必要になるかもしれません。親子共倒れという言葉が現実味を帯びてきたのです。
これ以上、隆さんが介護を行えないとなると、両親を介護施設に入れるという選択肢があります。しかし、そうすると再びお金の問題が勃発。自身の生活費と親の施設代を合わせると、月28万円ではとても足りず、再び、隆さんの退職金に手を付けることになります。
親の介護問題からは、いずれ解放されるでしょう。そのとき、隆さんの退職金は底を突いているかもしれません。しかし、隆さんの老後はさらに続いていきますが、頼れるのは繰上げ受給している自身の年金月13万円だけ。できれば自身の退職金はこれ以上減らしたくない……。
――もう限界だ
そう嘆いていると、京子さんから一つの提案がありました。それは自宅を売却し、老人ホームの入居費用に充てるというもの。隆さんは部屋を借りる必要がありますが、介護負担からは解放されます。しかし、両親が苦労して手に入れた自宅を売却することに抵抗感がありました。そんな想いを察したのでしょう。「もう私たちの介護はいいから。隆さん自身の生活を立て直すためにも、家は売ってしまいましょう」と京子さん。京子さんの言葉に背中を押され、隆さんは初めて実家から出て暮らすことを決断しました。自宅は売りに出され、勝利さんと京子さんは老人ホームに入居。こうして、60年間ずっと一緒だった親子の生活は終わりを告げたのです。
親子共倒れ。最悪の事態は避けられましたが、心残りがあるといいます。それは勝利さんと京子さんの施設が別々になってしまったこと。
――自宅で介護を続けていれば、父と母はずっと一緒にいられたのに
和田さん親子のケースは決して特別なものではありません。総務省の調査によると、年間10万人以上が介護を理由に離職しているといわれています。介護離職の最大の問題は収入が絶たれることで、その後の生活が困窮することです。一度仕事を辞めると再就職は簡単ではありませんし、特に60歳を超えると、正社員として雇用される機会は大きく減少します。
隆さんも苦労はしましたが、何とか契約社員として再就職が決まり、月20万円強の収入を得ています。休みの日には勝利さん、京子さんが入居する施設に面会に行き、親子の時間を過ごしています。
[参考資料]
日本年金機構『年金の繰上げ受給』