認定NPO法人「キッズドア」が24年10~11月に実施した調査によると、母子家庭を含む1,160世帯のうち、受験費用の準備手段として「借入れ」と回答した世帯が6割を超えたことが明らかになったという。こうした家庭の状況によって、進学を諦めざるを得ないケースは多い。本記事では、Aさんの事例とともに、都心での就学を希望する地方の若者が抱える経済的・心理的な負担について、アクティブアンドカンパニー代表の大野順也氏が解説する。
これで黙ってくれるなら…上京した九州地方出身・25歳大卒の長女が、両親への「仕送り月3万円」を激しく後悔したワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

娘に「結婚して家庭に入るべき」という家族

九州地方出身のAさん(25歳・女性)は、現在東京で会社員として働いている。大学進学を機に上京した理由は「実家から脱出したかったから」だ。その背景には、地方に根強く残る価値観や家庭環境の問題があった。

 

Aさんの家族は、土木系の会社で働く父親と専業主婦の母親、そして3歳上の兄の4人で暮らしていた。母親は「女性の役割は家庭を守ること」という価値観が強く、親戚もまた「女性は結婚して家庭に入るべき」という考えが根強かった。唯一結婚せずに働いている叔母は、親戚から結婚について問いただされていることが常だった。さらに、兄からは「頭が悪いんだから早く養ってもらえる旦那を見つけろ」と、心ない言葉まで投げかけられることもあった。

 

このような環境に耐えかね、Aさんは大学進学と同時に上京することを決意。しかし、両親は「大学に行かせるお金なんてない」と猛反対。兄は文句をいわれることなく関西の大学に進学していたのにと、その対応の差にAさんはうんざりしたという。しかし、父の収入だけで家計を支えていたため、経済的な余裕がないのは事実だった。

 

進学を諦めかけていたAさんを支援してくれたのは、親戚の中で唯一独身で働いていた叔母だった。「私も大学に行きたかったが行けなかった。あなたにはストレスを抱えずに生きてほしい」と、受験費用や入学金などを支援してくれたという。学費については自分でなんとかしようと奨学金を借りる選択をし、東京の私立大学に進学した。

 

奨学金返済のために、少しでも生活費を抑えたいと考えたAさんは、4万3,000円で入居できる女子寮に住むことに決めた。毎月の収入はアルバイト代約4万円と、奨学金10万円で、なんとかやりくりしながら学業に励んだ。

 

大学1年生のころは長期休みに帰省していたが、案の定「卒業後は地元に戻ってきて働きなさい」「誰も養ってくれなくなる前に早く結婚しなさい」と母親や親戚から矢継ぎ早にいわれる。帰っても頭が痛いだけと、次第に帰らなくなった。こうしてAさんは、奨学金に支えられながら大学生活を過ごした。

 

このように、都心で生活する人からは想像できないかもしれないが、地方においては未だに“女性は家庭に入り専業主婦であるべき”といったような偏った価値観が存在するケースもあり、自由かつ積極的な進学・就職・ライフスタイルに対する大きな壁が存在している。

 

これらの壁を乗り越えるために奨学金を借りる場合もあり、就職後に奨学金の返済とこれらの価値観との狭間で苦しむことも珍しいことではない。