自分の親は持病もないし元気だから大丈夫……そう思って準備を先延ばしにしていると、いざというとき「取り返しのつかない後悔」にさいなまれるかもしれません。突然始まった介護生活によって今までの生活が一変した53歳の篠原保夫さん(仮名)もその1人です。ルポライター増田明利氏の著書『今日、50歳になった 悩み多き13人の中年たち、人生について本音を語る』(彩図社)より、50代の“生の声”を紹介します。
悲しくなってくる…82歳母の“変わりゆく姿”に「もう限界」東京都板橋区在住、年収900万円・53歳サラリーマンの悲嘆【ルポ】
介護退職が頭をよぎる…もう、限界
大手企業は介護者向けの短時間勤務制度を設けたり社員の相談窓口を設置したりしていることがあるが、篠原さんが勤務する会社にはこういった支援制度はない。上司や同僚には事情を話してあるので大変ですねと気遣ってくれるが、急に休んだり早退することが何度もあるとやはり申し訳ないと思ってしまう。
「母の状態が悪化しても特養に入れなかったら、9時~18時まで勤務する正社員では介護と仕事の両立は無理だろうと不安になります」
休職して介護に専念するか、最悪の場合は介護退職することもあり得ると危機感を感じてしまう。
「母の状態は1年前と比べると明らかに体力が落ちています。ボケの症状が出てくる頻度も増えていますし」
指の力が落ちたため、カーディガンのボタンをとめるのに3分もかかったり、畳に座った状態で靴下を履こうとしたら横に倒れてしまい自力で起き上がれないようなことが何度かあった。
「ほぼ正常な受け答えができるときがあるが、どういう訳なのか今どこにいるのか理解できないこともある。こういうときは顔つきがおかしく、能面のような感じなんです。話しかけても反応がありませんでね」
ゴキブリがいるとあちこちに殺虫剤を撒いたり、魔法瓶に話しかけたりている姿を見ると悲しくなってしまう。
「介護には準備期間がない。ある日突然やってくる。そこが出産や子育てと違う。親が80歳近くになったら身内で役割分担や金銭的なことを話し合っておくべきですよ」
親には持病はなく元気でやっている。支援や介護はまだ先だと思っていると、そのときが来たときに何をどうしたらいいのか、どこに相談すればいいのか混乱することになる。50代サラリーマンにとって介護は待ったなしなのだ。
増田 明利
ルポライター