変わりゆく母の姿に53歳息子は何を思う

氏名/篠原保夫(53歳)

出身地/東京都足立区 現住所/東京都板橋区

最終学歴/94年大学卒業

職業/電子機器メーカー勤務・管理職 年収/約900万円

家族構成/妻51歳(歯科衛生士、パート勤務)、長男21歳(大学4年生)

50歳になって思ったこと/考える余裕なし。ただ老親のことが心配

予定外の訪問診療を頼んだものだから、篠原さんが出社できたのは午後勤務開始の直前。当日申請だったが半日休暇を認められたので欠勤扱いは避けられた。これだけは助かった。

篠原さんは電子機器メーカー勤務で経理部の管理職。この日の訪問診療というのは同居している高齢のお母さんが夜半から熱を出したため、2週間ごとに来てくれている在宅診療の先生に急遽予定外の往診をお願いしたからだ。

「朝8時ちょうどに電話してお願いしたのですが、来てもらえたのは10時半だった」

診察してもらったところインフルエンザではなく単なる感冒。扁桃腺が腫れたため熱が出たが大事ないということだった。

「その場でいつもの調剤薬局にスマホで処方箋を送ってもらったけど、届けられるのは正午過ぎということでした」

これでは休まなければならないので、たまに利用している生活支援サービス会社に頼んでヘルパーさんに来てもらい、薬の受け取りと料金の支払い、昼食後の服用だけ面倒見てもらうことにし、やっと出勤してきたという次第。

「生活支援サービス会社は介護保険外のサービス業なんです。料金は1時間3,000円必要。今日は来てもらってから帰るまで1時間半ぐらいかかるでしょうから明後日頃に4,500円払ってくれと請求書が来る」

困っているから利用しているが安くはないと思う。それでも利用しなければならないのが痛いところだ。

物忘れが増え…認知症になった82歳の母

急に熱を出したお母さんは82歳。約3年前に軽い脳梗塞を発症。命に別状はなかったが左半身の動作が悪くなり、物忘れも多くなった。

機能回復のリハビリをやったがほとんど効果がなく、自分の足で歩いて移動するのは困難で室内でも歩行補助器が必要。1年前頃から軽い認知症の症状も現れてきた。

「まだらボケというか、時々だけど記憶が抜けちゃうんです。自分の名前や住所が分からなくなったり、生年月日や年齢があやふやになったりすることがあるんです」

理解力も衰え、気になっていることを何度も繰り返し問うてくる。

「この3か月ほどで認知症が進んだ感じです。わたしを含めて家族の顔が認識できないことがある」

人物誤認の症状は顕著で、息子の篠原さんを自分の弟と間違えたり、孫たちをヘルパーさん、看護師さんと呼んだりすることがある。

「自宅にいるのに家に帰りたいとわけの分からないことを口走ったりすることもあります」

特に困るのが夜中の不穏行動。真夜中に突然大声をあげて騒ぐことがある。

「落ち着かせてどうしたのか尋ねたら知らない男がいるって……。幻覚とか妄想みたいなものなんでしょうね」

この他にも食事をしたことを忘れ、再三食べ物を要求してきたり、既に亡くなっている親やお兄さんが来ると言うようなこともあるそうだ。

「わたしも母親は病気なんだということは理解している。だけどねえ」