篠原家を襲う“さらなる悲劇”

「妻のお父さんが家で転倒して腰の骨と大腿骨を折る大怪我を負いまして。寝たきりというほどではないけど家事的なことやリハビリの付き添いなどの必要が生じたんです。5年前にお母さんが亡くなってから独り暮らしをしていまして、たまに妻と妻の兄嫁さんが様子を見に行っていたけどお元気だったのに」

今はヘルパーさんが週に2回来て掃除・洗濯などをしてくれ、炊事・食料品の買い出し・通院付き添いは妻と兄嫁さんが交代で受け持っているが先のことは分からない。

「頭の方はしっかりしているのですが糖尿病持ちだし、来年には80歳になるから認知症にならない保証はない。妻もそれを心配しています」

協力してくれている息子も来年は社会人になるので今のように頼むのは無理。

「ダブル介護になる危険性が高い……。わたしも妻も高齢の親がいるからこういう危険があることを考えておくべきだったな」

奥さんにこれ以上の負担を頼むわけにはいかないし、篠原さんも頻繁に早退したり半日休暇を取ったりするのも難しい。

「弟がいるのですがこいつは薄情であてにならない」

金銭的な負担は一切しないし、たまに来ても食事の世話だけやってそそくさと帰っていく。仕方なくやっているという感じが見え見えだという。

お母さんに施設に入ってもらうという手もあるが、それも簡単なことではない。母親の国民年金と遺族年金だけでは有料老人ホームに入居するのは経済的に厳しい。サービス付き高齢者向け住宅も重度の介護状態になったら住み続けられないというデメリットがある。

「そこで月々の基本料金が9~13万円という公設の特別養護老人ホームを選択したのですが、手続きは煩雑だし何百人も順番待ちしていて、いつ順番が回ってくるか見えないんです」

母親の“強がり”が心配

申し込み手続きは区役所に申請し、区が派遣したケアマネージャーとの面接、区の最終審査などをクリアしなければならなかった。

「ケアマネージャーとの面接の前に食事やトイレは一人でできないって言おうねと教えたのですが、年寄りは人前では少しでもよく見せたいのか、すごく元気なふりをするんです。普段は家の中でも歩行器を使っているのに壁伝いに歩いてトイレに行ったり、冷蔵庫から麦茶を出して『どうぞ』とやったりでした」

ケアマネージャーには「お元気じゃないですか」と言われたが、帰ったら介護ベッドに倒れ込む始末だった。

「入居申請は受理してもらえたのですが、先に500人近くも待機していると教えられてびっくりしました。母の順番が来るには7、8年かかるかもしれません。既に入居している人や先の順番の人たちが死んでくれるのを待っているみたいで嫌だなあ」

20代、30代の頃は高齢者福祉に税金を使うのは生産的じゃないと思っていたが、自分の親が支援や介護を必要とするようになって浅はかさに気づかされた。

「母の世話や通院の付き添いのために有給休暇は積み増ししてあります。自分の体調が悪く、本当なら休暇を申請して休みたいと思うこともあるけど我慢するしかない」