年齢を重ねるごとに親子の関係は変わり、「子どもを心配する親」から「親を心配する子」の色が強くなっていきます。特に高齢の親がひとり暮らしをしていたら、子どもの心配は計り知れません。そこで選択肢になるのが「老人ホーム」です。しかし「親が老人ホームに入ってくれたから安心」というわけではないのです。
もう、生きているのも辛いだけ…〈年金16万円・79歳母〉、息子たちの勧めで「老人ホーム」入居…2カ月後に確信した「悲しい現実」 (※写真はイメージです/PIXTA)

施設の快適と募る孤独

岡本さんが入居したのは介護付き有料老人ホーム。清潔感があり、食事も栄養バランスが考えられている。スタッフも親切で、入居当初は「ここなら安心して暮らせそう」と感じたといいます。しかし、時間が経つにつれて、思い描いていた暮らしとのギャップを感じるようになりました。他の入居者と交流しようと話しかけても、なかなか会話が続かない。同じフロアの住人の多くは認知症が進んでおり、まともな会話ができる人が少なかったのです。レクリエーションのガーデニングも、岡本さんが期待していたような内容ではなく、スタッフが草花を植え、入居者はそれを鑑賞するだけ。自分たちの手で植物を育てる楽しみを感じられるものではありませんでした。

 

さらに入居前は「ここならすぐに遊びに行ける」と言っていた息子たちも、一度も面会に来ませんでした。たまに電話が来ることはありましたが、忙しい息子たちに遠慮してしまい、岡本さんからはなかなか連絡できません。「老人ホームに入れば、一人暮らしの不安はなくなると思っていました。

 

確かに「一人の不安感」はなくなりましたが、その分、「孤独感」を強く感じるようになりました」と岡本さんは語ります。そういえば、息子から老人ホームを勧められてから入居に至るまで、あまりにスムーズで用意周到でした。息子たちにとって、岡本さんを老人ホームに入居させることは、厄介払いでしかなかった……。入居から2ヶ月、家族と疎遠になるなか、ひとつの疑念が確信に変わりました。そのことで岡本さんの孤独感は一層、増すばかり。寂しさは計り知れず、「もう、生きているのも辛いだけ」とぽつりつぶやくほどでした。

 

内閣府の調査によると、80代以上の38.6%が孤独感を感じていると回答しています。特に、一人暮らしの高齢者や、家族や友人との交流が少ない高齢者は、孤独を感じやすいといわれています。

 

*常に・しばしばある、時々ある、たまにあるの合計

 

老人ホームは高齢者が安全に暮らせる場所であることは間違いありません。家族としても、高齢の親が一人暮らしをしているよりも安心できることでしょう。しかし、岡本さんのように「生活のしやすさ」と引き換えに「孤独」を感じることは珍しくありません。入居者の家族は「老人ホームに入ってもらってひと安心」と終わりではないことを肝に銘じておきたいものです。

 

[参考資料]

株式会社LIFULL senior/LIFULL 介護『「介護施設入居実態調査 2025』【探し方編】

内閣府『令和5年 人々のつながりに関する基礎調査』