がんと一緒に生きる選択

がん治療は簡単ではありません。切るにしても、化学療法にしても、身体へのダメージは甚大で、体力も大きく落ちます。特に高齢者は、手術が成功しても、その後の生活の質を落とし、それまで元気だった人でも、一気によぼよぼの老人になります。

それでも手術をする人が多いのは、手術で身体が弱っても、手術しないよりは長生きできると思っているからです。つまり、よぼよぼになって1年でも長生きするか、数年早く死んだとしても、元気な状態を長く持続して生きるか、どちらをとるかという決断を迫られることになります(実は「早期発見と転移の確率」に書いたように、実際に長生きできるとは限らないのですが)。

これは、人それぞれの生き方の問題ですから、どちらが正解ということはありません。しかし、80歳を過ぎて臓器を切り取られてしまったら、これまでのようには生活できないことは明らかです。私が、高齢者専門の浴風会病院に勤務していた当時、毎年100人くらいの解剖結果を目にしてきましたが、85歳を過ぎた人で、体内のどこにもがんがない人なんていませんでした。歳をとればとるだけ、がん細胞はつくられてしまうのです。高齢になればみんな、身体のどこかにがんを抱えながら平気で生きているということです。

一般的に、70代や80代のがんは、中高年のがんより進行が遅いですから、放っておいても、手術した場合と同じくらい生きられる可能性があります。少なくとも、手術をしないほうが、残りの人生を元気に生きられると考えています。自分はこれからの晩年をどう生きたいのか考えておくことも、がんになったときに慌てないためには必要かもしれません。

和田 秀樹
和田秀樹こころと体のクリニック院長