人間の寿命は、栄養状態の改善や医学の進歩によって飛躍的に延びてきました。現代を生きる私たちにとって「老後の健康問題」は、さらに重要性を高めています。本記事では、高齢者医療に30年間以上携わる医師の和田秀樹氏が、70代、80代を楽しく生きるために知っておくべき「新常識」について著した『70代、80代を楽しむためにこれだけは知っておこう!』(かや書房)より一部抜粋・再編集して、70代以降における「心身の健康」との向き合い方について解説します。
がんと一緒に生きる――医師の和田秀樹氏が「手術は受けない」と今から決めている理由【約30年間「高齢者医療」の臨床経験から、たどり着いた結論】
数値のみで判断せずに身体の状態を見極める
コレステロール値を下げると、それを材料にしてつくられる男性ホルモンも減ってしまいます。男性ホルモンは心身の健康の維持に必要不可欠な成分で、これが減少すると、元気や意欲がなくなります。筋力が低下したり、感情が不安定になったりもします。コレステロールは、若々しく、元気な老後を過ごすためには、とても大事で必要なものなのです。
「血圧を下げましょう」という健康指導が徹底されますが、実際はどれくらいまで下げるかは曖昧です。昭和30~40年代の日本人の栄養状態が悪かった頃には血圧150くらいでも血管が破れることがありましたが、現代では、動脈瘤がない限り、血圧が200でも破れることはありません。これは80歳を過ぎた人でも同じです。しかし、これにも個人差があります。例えば血圧180で頭痛や吐き気などがある場合は、その人にとって180は高いということになるので、血圧を下げる薬を飲むべきです。
つまり、数値だけで「異常」と判断し、薬を飲み続けるという選択は間違っているということです。数値に惑わされず、自分の身体の状態から判断するのが賢い選択です。ちなみに私の場合は、170ぐらいが頭もしっかりして体調が一番いい数値です。
これらをトータルで考えると、薬の服用にこだわらず、症状によって柔軟な対応をしたほうが、元気な70代・80代を過ごせると私は考えています。つまり、血圧や血糖値、コレステロール値を下げることは、動脈硬化には効果的ですが、それまで維持してきた活力が奪われたり、がんのリスクが高まったりするわけです。
血圧、血糖値、コレステロール値を下げる薬を飲むということは、これからの生活の質を落として生きるという、マイナスの選択の可能性が高いのです。
![[図表5]日本人の死因の割合と70代以上の死因トップ3(総数)](https://ggo.ismcdn.jp/mwimgs/1/5/540mw/img_15cf6d96b531f28b16194ebf86c67ffc129000.jpg)