人間の寿命は、栄養状態の改善や医学の進歩によって飛躍的に延びてきました。現代を生きる私たちにとって「老後の健康問題」は、さらに重要性を高めています。本記事では、高齢者医療に30年間以上携わる医師の和田秀樹氏が、70代、80代を楽しく生きるために知っておくべき「新常識」について著した『70代、80代を楽しむためにこれだけは知っておこう!』(かや書房)より一部抜粋・再編集して、70代以降における「心身の健康」との向き合い方について解説します。
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がんと一緒に生きる――医師の和田秀樹氏が「手術は受けない」と今から決めている理由【約30年間「高齢者医療」の臨床経験から、たどり着いた結論】
日本のがん治療を受けたあと
日本の場合、がんの転移を過度に恐れるあまり、手術でがんだけ切除すればいいものを、がんに冒されていない臓器まで切り取ってしまうのです。若い頃であれば、それでも耐えられる体力がありますが、高齢者にはその体力がない場合が多いのです。化学療法においても、劇的に効果を見込めるものはほとんどなく、つらい副作用も現れて体力を落とします。
高齢者のがん治療は、延命につながる可能性もありますが、その後の人生はボロボロになります。私は、そういった高齢者をたくさん見てきたので断言できるのです。
早期発見と転移の確率
がんは少しずつ大きくなるので、1センチくらいの大きさになるまで一般的に検査では発見されません。もちろん、その大きさでは自覚症状もなく、いわゆる早期発見となります。しかし、がんが1センチくらいになるということは、最初のがん細胞ができてから、10年くらい経過しているものなのです。それが転移していないとしたら、さらに10年経っても大きくなることはあっても転移はしないでしょう。
逆に、発見したがんを切除しても、それが転移するがんなら、その10年間にほかの臓器に転移している可能性が極めて高いのです。1つを取っても、時間とともに別のがんが大きくなり、それがさらに広がり、再発の可能性が高いと考えます。ですから、早期発見をして手術をしたとしても、かなり厳しい状況になる可能性が高いのです。
転移するがんであれば、結局、切っても切らなくても死ぬということになります。転移しないがんであることに望みを持ち、手術をしない選択をするというのが私の考え方で、私ががんを切らないのは、こうした理由からです。