
70歳を前に「がん」の診断
しかし、人生、思い描いたとおりに進むとは限りません。石井さん、69歳になったとき、石井さんは「肝臓がん」と診断されます。肝臓は「沈黙の臓器」と、肝臓がんの初期には自覚症状がほとんどないことで知られています。だからこそ、がんと診断されたときは信じられない気持ちでいっぱいでした。
国立研究開発法人国立がん研究センターによると、日本全国で肝臓がん(肝細胞および肝内胆管のがん)と診断されたのは3万4,744人(2020年)。5年生存率は5割を切るといわれています。
――告知を受けて、とめどなく涙があふれてきました。真面目に、本当に真面目に生きてきたのに、なぜ私がこんな目に……と
石井さんは、繰下げ受給を選んだことも後悔したといいます。
――まさか、こんなことになるなんて、考えもしませんでした。こんなことになるとわかっていれば、「働けるうちは働く」なんて考えず、年金を受け取りながら静かに暮らしていたのに
石井さんは肩を落とします。
貯金は、治療費に充てることになりました。「できれば手を付けたくなかったのですが、仕方ありません」と、石井さんは静かに語ります。石井さんの妻も「できるだけ長く生きてほしい。万一のときのためにコツコツと積立貯金をしてきたんだから」と、先進医療による治療についても前向きに考えているといいます。
先進医療は公的医療保険の対象にするかを評価する段階にある治療・手術などのことをいい、令和7年2月1日現在で74種類あります。「先進医療に係る費用」については全額自己負担。たとえば肝臓がんの初期治療には重粒子線治療などの先進医療がありますが、技術料は平均313万円です。
【先進医療の一例と技術料(1件当たり平均額)】
・陽子線治療…265.9万円
・重粒子線治療…313.5万円
・抗悪性腫瘍剤治療における薬剤耐性遺伝子検査…3.7万円
・家族性アルツハイマー病の遺伝子診断…3万円
・腹腔鏡下膀胱尿管逆流防止術…25.1万円
出所:厚生労働省『令和5年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告について』
告知を受けた直後と比べると、前向きになったという石井さん。
――人生、本当に何があるかわかりません。真面目に生きることは大切ですが、それだけではどうにもならないこともある。先を見据えて準備をすることも重要ですが、今をしっかりと生きないとダメですね
[参考資料]