「定年後は夫婦でゆっくり旅行でも……」そう考えていたのに、突然の離婚宣告。昨今、定年を迎えるタイミングでの熟年離婚が増えています。3月は離婚が多い時期とされ、長年連れ添った夫婦が「この先の人生」を見つめ直す節目になっているのかもしれません。本記事では、MさんとFさんの事例から、離婚がおよぼすライフプランへの影響についてFP事務所・夢咲き案内人オカエリ代表の伊藤江里子氏が解説します。
「退職金2,500万円」「最高年収1,200万円」59歳夫、奮発して定年祝いの高級旅館・宿泊計画中にまさかの事態…妻は秒速引っ越し、家はがらんどう。息子が告げる「衝撃の追い打ち」【CFPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

後悔しないために必要な「マネープラン」と「キャリアプラン」

Fさんのように、離婚を計画的に準備する人は少なくありません。もしかすると、Mさんの妻も同じように、長い時間をかけて離婚を考えていたのかもしれません。

 

「婚姻費用」とは?

Fさんは「別居中の私の生活費も夫が負担しなければならないなんて、知りませんでした」と、弁護士から「婚姻費用」の説明を聞いたとき驚いたそうです。協議離婚を経験した30代および40代の男女1,000名に調査した結果、約41%の人がこの制度を知らなかったと回答しています※3

 

婚姻費用の認知度調査
[図表3]婚姻費用の認知度調査 出典:法務省「令和2年度法務省委託調査研究 協議離婚に関する実態調査結果の概要」より


夫婦が婚姻関係にあるあいだに必要となる生活費のことを指します。特に別居中であっても、収入の多いほうが少ないほうへ生活費を分担する義務があるとされ、これは法律で定められているのです(民法760条)。対象となるのは、食費や住居費、医療費、子どもの教育費など、生活に必要な支出全般。金額は夫婦それぞれの収入や生活状況をもとに決められます。裁判所の算定表を参考にすることが一般的です。

 

財産分与の対象

さらに、Mさんは「年金だけでなく退職金も財産分与の対象になる」と知り、驚きを隠せませんでした。これまでコツコツと貯めてきた預貯金と合わせ、資産の半分近くをわけることに。思い描いていた老後の生活設計は大きく変わってしまいました。加えてひとり暮らしの生活費は想像以上にかかり、外食に頼ってしまうことで食費の負担も増加。

 

実家の母から、父がどうやら認知症らしいという連絡もあり、再雇用での働き方も真剣に悩んでいるそうです。熟年離婚は突然の出来事ではなく、片方が長年考え続けた末の決断かもしれません。Mさんも、離婚に応じることを決めたら今後のマネープランとキャリアプランをしっかり考えることが大切です。どちらの立場でも、離婚後に後悔しないためには、「婚姻費用」「財産分与」「年金分割」などの制度を理解し、相談窓口を利用しながらシングルになったあとのマネープランを考えることが大切です。

 

〈参考〉

※1 厚生労働省「人口動態統計速報」

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/s2024/dl/202412.pdf

※2 日本年金機構 「ねんきんネット」による年金見込額試算

https://www.nenkin.go.jp/n_net/introduction/estimatedamount.html

※3 法務省 「令和2年度法務省委託調査研究 協議離婚に関する実態調査結果の概要」

https://www.moj.go.jp/content/001346482.pdf

 

 

伊藤 江里子

FP事務所 夢咲き案内人オカエリ 代表