
「投資したらすぐにお金が増える」という、とんでもない勘違い
孫の誕生により、定年後の働き方を変えた大野さん。さらにもうひとつ、孫の誕生により、変えたことがあります。それは資産運用。それまでは「貯金が一番安全」と、それ以外の選択肢を考えることすらなかったといいます。
きっかけは、福利厚生の一環として行われた、「老後資金&退職金運用セミナー」。外部から講師を招いて行われたもので、子のセミナーに参加した大野さんは「貯金に偏った資産運用がどれほど損か、思い知らされました」といいます。
――インフレを超える運用をしなければ、資産は目減りする。わかっていたけれど、それほど重要に考えてこなかったことが、ガツンときましねて。このままじゃいけない、と思ったんです
何よりも「お孫さんのために、どのように資産を残すか」という言葉にハッとさせられたといいます。
――これまでは自分たちの代でお金を使い切ることだけを考えてきました。ただ孫のことを思うと「お金を残したい」と思うようになったんです
60歳にして、初めて預貯金以外の資産運用を心に決めた大野さん。もちろん、知識はゼロ。昨今であればNISAからスタート、という人が多いでしょうか。大野さんも「まずはNISA」と、誰もが歩む道をまずは辿りました。ただそこからがマズかった……。
――投資をしたらお金は、2倍にも3倍にもなる
大野さん、投資に対してそんなイメージをもっていました。初心者にありがちな勘違いです。もちろん、ビギナーズラックでそのようなことが起きないとはいいきれませんが、リスクを抑えた投資であれば、その分リターンも少ない、当然のことです。だからこそ「時間を味方につける」という言葉があるのでしょう。しかし勘違いした大野さんがちょうど目にしたのが「FXで短期間で資産を10倍にする」というネット広告。
――「これだ!」と思ったのが転落の始まりでした
もう説明不要でしょう。投資初心者にも関わらず、さらに大した知識もないのにFX(外国為替証拠金取引)に参入。FXは高いリスクを伴う投資であり、特に初心者が十分な知識や経験なしに始めると、大きな損失を被る可能性があることなど、知る由もありませんでした。
少ない資金で大きな取引ができるレバレッジを過度に利用し、相場の変動で想定以上の損失を出してしまう。損切りラインを設定せず、損失が膨らんでも取引を続けてしまう。さらに冷静な判断を欠き、損失を取り戻そうと無計画な取引を行う……小額から始めて経験を積むことが重要であり、リスク管理を徹底し、感情に左右されない取引を心がける必要があるFX。そのような基本をすっ飛ばして儲けようとした大野さん。あっという間に退職金分の損失を被り、マーケットから退場することになりました。
【60代の資産運用の直近の状況】
・1年前に比べて資産額が増えた…35.4%
・1年前と比べても資産額は変わらない…40.9%
・1年前と比べて資産額が減った…23.7%
(資産が減った理由)
・定例的な収入が減ったので金融資産を取り崩したから…60.2%
・耐久消費財(自動車、家具、家電等)購入費用の支出があったから…19.9%
・旅行、レジャー費用の支出があったから…11.5%
・株式、債券価格の低下により、これらの評価額が減少したから11.5%
・土地・住宅購入費用の支出があったから…2.6%
・扶養家族が増えたから…1.0%
出所:金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](令和5年)』
――相続はおろか、十分なお年玉もあげられない……情けないじぃじで、ごめん
初孫の1歳の誕生日を前に悔やむ日々。だからといって、損失をどうにかしようと行動すれば、裏目に出ることはわかっていました。「働けるまで働く」以外の選択肢はないと痛感しています。
[参考資料]