65歳以降も年金をもらいながら働くことが多くの人にとって現実的な選択肢となりつつあります。しかし、制度について理解が不十分のままでいると、「働いていたのに、思ったよりも年金が減ってしまった」という事態にもなりかねません。今回は、65歳以降も働き続ける選択をした会社員男性を事例に、年金制度の意外な落とし穴について南真理FPが解説します。

ひたすら真面目に働き、65歳以降も前向きに仕事を続けるつもりだった64歳会社員。年金事務所で告げられた〈月10万円の年金カット〉に思わず怒り「長年苦労してきたのに、あんまりでは」【FPの助言】
年金を楽しみにしていたのに…まさかの減額「いったいなぜ」
産業機械部品を製造する中堅メーカーに勤める石田聡一さん(仮名・当時64歳)は、会社から「65歳以降も嘱託役員として引き続き働いてほしい」と、打診を受けました。
石田さんの勤める会社は、建設機械や自動車向けの精密部品を大手メーカー中心に販売しており、日本の製造業を支える重要な企業のひとつです。
石田さんは、高校卒業後、嘱託社員としてこの会社に入社しました。コツコツと真面目に働き、仕事への熱意を評価された結果、35歳のときに正社員へ登用。それからは営業職として、大手建機メーカーとの取引を長年担当し、数億規模の契約をいくつも成功させるなど、会社の成長に大きく貢献してきました。
その後、50歳から管理職に昇進。部下の育成にも力を入れ、若手社員の営業指導に尽力しました。そして、64歳のとき、長年の実績と社内での信頼が評価され、ついに役員に昇格。会社の経営にも関わる立場になりました。
そんな石田さんは、毎年届くねんきん定期便をチェックしており、年金受給予定額を把握済みでした。しかし、当然ながら人生で初めて受け取る年金です。念のためと思い、65歳の誕生日が近づいたある日、年金事務所に年金額を試算してもらいに行きました。
「ようやく年金がもらえる」と、長年苦労しながら働き、年金を納め続けてきた石田さんにとっては感慨深いものでした。
しかし、担当者から告げられた年金額は驚くべきものでした。65歳以降も今の収入の場合、月約17万円受給できると思っていた年金がなんと月10万円も減額されるというのです。
「えっ……? どういうことだ?」
すると、担当者から「働きながら年金を受給する場合、給与(役員報酬)と年金の合計額が一定の基準を超えると、年金が減額される制度があるのです」と、淡々と告げられたのです。
石田さんは、65歳以降も嘱託役員として働き、月60万円の役員報酬を受け取る予定です。しかし、この収入が原因で、年金が大幅に減額されることを初めて知ったのです。
「働くことはそんなに悪いことなのか?」と、石田さんは大きなショックを受けたのです。