65歳以降も年金をもらいながら働くことが多くの人にとって現実的な選択肢となりつつあります。しかし、制度について理解が不十分のままでいると、「働いていたのに、思ったよりも年金が減ってしまった」という事態にもなりかねません。今回は、65歳以降も働き続ける選択をした会社員男性を事例に、年金制度の意外な落とし穴について南真理FPが解説します。

ひたすら真面目に働き、65歳以降も前向きに仕事を続けるつもりだった64歳会社員。年金事務所で告げられた〈月10万円の年金カット〉に思わず怒り「長年苦労してきたのに、あんまりでは」【FPの助言】
在職老齢年金制度とは?
60歳以降に老齢厚生年金を受け取りながら働く場合、「老齢厚生年金の月額」と「月給・賞与(直近1年間の賞与の1/12)」の合計額が50万円を超えると、年金が減額されます。この仕組みを在職老齢年金制度といいます。
なお、減額の対象は老齢厚生年金であり、老齢基礎年金(国民年金)は減額されず、全額受け取ることができます。
現在、政府は年金改革の一環として在職老齢年金制度の見直しを検討しています。65歳以降のシニア世代の就労意欲を損なうとの指摘を受け、2026年4月からは、「老齢厚生年金と給与等」の合計額が月62万円までであれば、年金(老齢厚生年金)を全額受給できるようにする方針です。
少子化による現役世代の減少を背景に、65歳以降も継続して雇用する取り組みが企業で進められています。
石田さんは年金をどれくらいカットされるのか?
基本月額(年金月額)と総報酬月額相当額の合計が50万円以下の場合、老齢厚生年金は全額支給されます。基本月額(年金月額)とは、老齢厚生年金(年額)を12で割った額です(加給年金は除く)。また、総報酬月額相当額とは、月給と直近1年間の賞与を12で割った額を足した金額になります。
反対に、基本月額と総報酬月額相当額の合計が50万円を超える場合には、厚生年金の一部または全部が減額されます。計算式は以下の通りです。
支給停止額=(基本月額+総報酬月額相当額-50万円)×1/2
〈石田さんの月給、年金受給額〉
月給(役員報酬):60万円/月(ボーナスなし)
老齢基礎年金(国民年金部分):6.8万円/月(81.6万円/年)
老齢厚生年金(厚生年金部分):10万円/月(120万円/年)
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〈石田さんの支給停止額〉
支給停止額=(10万円+60万円-50万円)×1/2
=10万円
石田さんの老齢厚生年金の受給額は月10万円です。そして、支給停止額は10万円となります。
つまり、老齢厚生年金は全額支給停止となり、現在の報酬で働いている限り、受給できるのは国民年金部分の6.8万円のみということになります。
実は石田さんは、学生時代は成績も優秀で、大学進学を予定していました。しかし、高校時代に父が急逝したため、大学進学を断念し働き始めました。その後、35歳まで正社員にはなれず、年収も不安定な時期が続きました。
30歳で現在の妻と結婚し、二人三脚で2人の子どもを育ててきました。苦労しながらも働き、厚生年金も払い続けていたにもかかわらず、現在の働き方では厚生年金が全く受給できないという現実に、石田さんは大きな憤りを覚えました。