60歳定年。いよいよ老後はすぐ目の前に。そんなタイミングでは、どんなに準備を整えていたとしても、将来に対し大きな不安に襲われるものです。そのようなとき、定年とともに手にした退職金でどうにかしようと考えがち。浅はかな判断から、資産が増えるばかりが損をするというのも定番です。
銀行を信じた自分がバカだった…定年後に投資を始めた「退職金1,200万円・年金想定月15万円」の60歳サラリーマン、スマホを握りしめフリーズ。後悔で涙目のワケ ※写真はイメージです/PIXTA

気づけば元本が減少…「実際の損失」は?

これまで毎月受け取れる分配金ばかり気にして、評価額を確認したことはありませんでした。そこで初めて1,000万円で購入した投資信託の評価額は約750万円にまで減少。半年で250万円の含み損を抱えていることを知ったといいます。

 

――それなら銀行に預けたままのほうがよかったじゃないか

 

しかも、毎月の分配金を足しても、合計で約30万円しか受け取っていませんでした。

 

250万円の元本減少-30万円の分配金=実質220万円の損

 

また、投資信託を解約すると信託財産留保額(解約手数料)として、さらに2〜3%が差し引かれることも判明しました。森田さんは、後悔のあまりスマホを握りしめたままフリーズ。思わず涙目になってしまったといいます。

 

【60代単身者「投資において元本割れの経験」】

■元本割れの経験あり…41.4%

■元本割れの経験なし…58.6%

(元本割れの受け止め方)

・自分の相場についての予想が外れたのであるから、それは仕方がない

…68.6%

・自分が元本割れするリスクをよく理解していなかったのであるから、それは仕方がない

…16.6%

・相場の変動によって元本割れするリスクを金融機関が十分に説明しなかったためだ

…6.3%

・著しい誤解を招く広告、勧誘を金融機関から受けたためだ

…8.6%

出所:金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査]2023年』

 

後日、大学時代の同期で金融業界に進んだ友人に疑問をぶつけた森田さん。

 

――なぜ銀行は「毎月分配型の投資信託」を勧めたんだ? 

 

質問をぶつけると、友人は毎月分配型投資信託についてすらすらと答えていきます。

 

・販売手数料(3〜5%)が高い、つまり銀行が儲かる

・信託報酬(運用管理費)が高いため、銀行にとって安定した収益源になる

・ 「毎月お金が入る」という安心感でシニアは納得しやすい

 

運用成果を毎月受け取ることができるから、「もう少し年金が増えたら」と考える人には向いているといえる。一方で分配金を毎月受け取ってしまうと単利になるため、長期で見ると資産を増やしづらいという一面も。「投資なんて一長一短。メリットもデメリットも知ったうえで、納得して投資しないと、お前みたいに後悔することになる」と友人。さらに「いい勉強になったんじゃないのか」と続けます。

 

思い返せば、銀行の担当者は商品のメリットもデメリットも説明していた(と思う)。

 

――結局、都合のよいところだけを切り取ってしまった。自分のせい……本当、バカだった

 

森田さん、やるからにはきちんと勉強しないと……と心を入れ替え、いちから資産運用の勉強をスタート。痛い思いをしてから5年、もうすぐ損をした分も取り戻せそうだといいます。

 

[参考資料]

総務省『家計調査 家計収支編 2023年』

金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査]2023年』