
社会保障関係予算の主な内容(4)~その他~
1.日本版CDC発足
新型コロナウイルス対応を踏まえた施策の一環として、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合した新たな専門家組織として、「国立健康危機管理研究機構」(JIHS)が2025年4月に発足する。2025年度当初予算案では設置経費として174億円が盛り込まれた。その準備経費として、2024年度補正予算でも65億円が計上された。
この組織を新設する話は元々、2022年6月に決まった「新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の方向性」にさかのぼる。
このとき、政府の司令塔機能を強化する方針とともに、「医療対応、公衆衛生対応、危機対応、研究開発等の機能を一体的に運用するため、国立感染症研究所と国立研究開発法人国立国際医療研究センターを統合し、感染症に関する科学的知見の基盤・拠点となる新たな専門家組織」を整備する必要性が提唱されていた。
これは感染症対策の司令塔として有名なアメリカの「米疾病対策センター(CDC)」に倣って、「日本版CDC」と呼ばれることが多く、2023年通常国会で国立健康危機管理研究機構法が成立していた。
同機構の役割としては、研究と臨床対応を通じて感染症流行の早い段階から患者情報を迅速に分析したり、症状や重症度、感染経路などに応じた対策を早期に検討したりすることが期待されている。さらに、科学的な知見に基つき、必要に応じて政府に提言する機能のほか、ワクチンや治療薬の開発の支援や平時からの専門家育成なども想定されている。
今後は内閣の司令塔として2023年9月に発足した「内閣感染症危機管理統括庁」や厚生労働省に新設された「感染症対策部」、病床調整などを担う都道府県※27、ワクチン接種などを担当する市町村、新薬やワクチンを開発する民間企業などと連携した対応策の強化が求められる。
※27 この関係では、都道府県が医療機関と協定を事前に結ぶことで、新興感染症に関する対応を強化するための制度改正が2022年臨時国会で実施された。詳細については、2022年12月27日拙稿「コロナ禍を受けた改正感染症法はどこまで機能するか」を参照。
2.住まいを中心とした生活困窮者自立支援事業などのテコ入れ
さらに、生活保護に至る前、または脱却後の暮らしを支援する「生活困窮者自立支援制度」などについて、居住支援の観点に基づきテコ入れが講じられた。そもそも住まいの支援については、長らく国土交通省の施策として理解されており、低所得者向け住宅の整備などを除くと、社会保障の範疇で必ずしも理解されていなかった。
しかし、高齢者人口の増加などを受けて、近年は「居住福祉」「居住保障」の必要性が論じられるようになっている※28。2023年12月に決まった改革工程でも、「地域住民の生活を維持するための基盤となる住まいが確保されるための環境整備が必要」「住まい政策を社会保障の重要な課題として位置付け、必要な制度的対応を検討していく」との方針が示されており、2024年通常国会で生活困窮者自立支援法などが改正された。
こうした流れの下、2024年度補正予算と2025年度当初予算案では、生活困窮者自立支援事業のメニューが拡充され、
▽高齢者、低所得者など要配慮者の相談対応などを担う「住まい相談支援員」を自治体の相談窓口に配置
▽家計改善のため、家賃が低い住宅に転居する際の支援
▽家計状況の把握と収支均衡、生活支援などを図る「家計改善支援事業」の拡大
などの経費が盛り込まれた。
このほか、生活保護法の改正を通じて、不動産仲介業者への同行支援などを展開する「被保護者地域居住支援事業」が法定化されており、未実施の自治体を支援する経費も2024年度補正予算に計上された。
住まいの支援の関係では、分野・属性を問わずに支援する「重層的支援体制整備事業」のテコ入れも図られた※29。これは2021年度から始まった制度であり、80歳代の高齢者と50歳代の引きこもりが同居する「8050問題」など、今までの支援から漏れていた個人や世帯の支援が重視されている。
さらに、趣味や就労などの社会参加機会の確保とともに、こうした場を運営する住民や企業との連携も意識されている。同事業でも住まいの支援が強化されることになり、2025年度当初予算と2024年度補正予算では、入居後の見守り支援などに関わる予算や事業が盛り込まれた。
※28 住まいの保障については、国立社会保障・人口問題研究所編著(2021)『日本の居住保障』慶應義塾大学出版会、野口定久ほか編著(2011)『居住福祉学』有斐閣などを参照。
※29 重層的支援体制整備事業については、医療・介護・福祉関係の審議会報告などで多用されている「地域の実情」に着目した拙稿コラムの第6回を参照。
3.孤独・孤立対策の推進
2024年4月に施行された孤独・孤立対策推進法の関係でも、幾つかの事業が2024年度補正予算と2025年度当初予算案に計上された。この関係では、新型コロナ対策で社会的距離の確保が求められるなか、孤立や孤独が社会問題になったことで、対策の必要性が論じられるようになった。
具体的には、2021年2月に孤独・孤立対策相が置かれた※30ほか、同年12月には「孤独・孤立対策の重点計画」が初めて作られた。さらに、2024年度当初予算では「孤独・孤立対策推進交付金」が創設され、NPO(民間非営利団体)などへの助成も始まった。
こうした経緯を踏まえ、2024年度補正予算と2025年度当初予算案では、名称が「社会参加活躍支援等孤独・孤立対策推進交付金」に変更され、それぞれ24億円、1億3,600万円が盛り込まれた。この事業では、地方における官民連携を強化するとともに、就職氷河期世代を含む中高年層に対する働き掛けを強化するとしている。
さらに、日常的な繋がりなど可能な範囲で困っている人を支援する「つながりサポーター」養成講座を広げるため、2024年度補正予算で4億1,000万円が計上されるなど、ネットワークや居場所の形成に取り組む団体を支援するための経費が2024年度補正予算と2025年度当初予算案に盛り込まれた。
※30 石破内閣で「共生・共助担当相」に変更された。