
社会保障関係予算の主な内容(1)~医療提供体制改革~
1.医師偏在是正
医療提供体制改革では、医師偏在是正に関して新規施策が2024年度補正予算と2025年度当初予算案に計上された。この関係では、武見敬三前厚生労働相が2024年4月、思い切った偏在是正策の必要性を強調。これを契機に厚生労働省内で急ピッチに議論が進んだ※21結果、2024年12月に「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」(以下、パッケージ)が公表されるに至った。
パッケージでは、
▽都道府県が策定している「医師確保計画」の実効性確保
▽重点的に偏在是正策を展開する地域で働く医師への手当増額
▽診療所で外来に携わる医師が多い「外来医師過多区域」での新規開業者に対する要件強化
▽総合的な診療能力を学び直すためのリカレント教育を中堅以上の医師に実施
といった内容が盛り込まれた。
こうした制度改正を実行するため、一部の施策では2025年通常国会で法改正が予定されているほか、2024年度補正予算と2025年度当初予算案でも関係事業が盛り込まれた。たとえば、2024年度補正予算では医師が少ない地域での事業承継や開業支援に102億円が計上されたほか、中堅医師へのリカレント教育の推進にも約1億円が確保された。
※21 医師偏在是正を巡る議論については、2024年11月11日拙稿「医師の偏在是正はどこまで可能か」を参照。
2.かかりつけ医機能の強化
身近な病気やケガに対応する「かかりつけ医機能」を強化するための制度が2025年4月から施行されるため、そのための予算も盛り込まれた。
これは元々、コロナ禍での出来事から持ち上がった案件である※22。政府はコロナの発熱外来への対応に際して、かかりつけ医での受診を国民に促したものの、「かかりつけ医とはなにか?」という点が法律や制度に明確に位置付けられておらず、患者が受診を断られるケースが散見された。
そこで、事前に受診する医師を指名する「登録制」など、かかりつけ医を制度化する是非が2022年秋から争点になった。結局、2023年通常国会で成立した法律では、患者が医師を自由に選べるフリーアクセスを前提としつつ、
▽かかりつけ医機能に関わる情報を都道府県に報告してもらう「かかりつけ医機能報告制度」の創設
▽機能報告制度の情報を基に、医療機関の情報を都道府県ごとに開示している「医療機能情報公表制度」を刷新し、かかりつけ医の現状に関する情報を国民に公表することで、かかりつけ医を選ぶ際の参考にしてもらう
▽機能報告制度の情報を参考にしつつ、都道府県を中心に、在宅医療など不足する機能を充足するように地域で協議し、自主的な対応を通じて、かかりつけ医機能を充足させる
という仕組みが制度化され、2025年4月から本格施行される。
こうした状況の下、2025年度当初予算案では、かかりつけ医機能の普及促進事業(7,500万円)などが計上されたほか、2024年度補正予算でもシステム運用・保守に関わる経費(約19億円)が盛り込まれた。
※22 法改正の内容や検討経過に関しては、2023年8月28日拙稿「かかりつけ医強化に向けた新たな制度は有効に機能するのか」、同年7月24日拙稿「かかりつけ医を巡る議論とは何だったのか」、2021年8月16日拙稿「医療制度論議における『かかりつけ医』の意味を問い直す」を参照。
3.公立病院の改革
公立病院に関する地方交付税措置も見直された。物価上昇などで資金不足が生じている公立病院に対し、経営改善計画の策定を促すとともに、その効果の範囲内で資金を確保できる病院事業債を2027年度までの措置として創設することが決まった。さらに、総務省と厚生労働省の共同事業として、経営層のマネジメント力を向上させる「医療経営人材養成研修」をスタートさせる方針も示された。
このほか、自治体に配分される交付税のうち、特別な行政需要に対応する「特別交付税」の算定ルールも見直された。具体的には、へき地医療を担う公的病院に対し、自治体が助成した場合の経費を支援する特別交付税が拡充され、訪問看護と遠隔医療が対象に追加された。不採算地区に立地する公的病院に関する特別交付税の基準額を2021年度以降、30%引き上げられており、これも継続する方針が盛り込まれた。
4.在宅医療・介護連携推進事業の拡充
このほか、市町村と地域医師会の連携の下、医療・介護連携を強化する「在宅医療・介護連携推進事業」の拡充が盛り込まれた。これは介護保険財源の一部を高齢者部門に「転用」する「地域支援事業」の1つであり、市町村レベルで在宅医療・介護の資源マップ作成とか、医療・介護専門職の研修、看取りをテーマにした住民向け講習会などが展開されている※23。
2025年当初予算案では、へき地や中山間地域、小規模自治体での事例収集に加えて、関連情報を集約するウエブサイトを構築する方針が示された。さらに、関係者のネットワーク化などを担う目的で、地域の医師会などに配置されている「在宅医療・介護連携推進事業コーディネーター」のハンドブック作成などにも努めるとしている。予算額は600万円増の4,300万円。