
コミュニケーション不安と情報提供
情報提供がコミュニケーション不安を増加させる可能性
ワークショップにおいて、情報提供は円滑なコミュニケーションを行うために重要な要素であるが、情報提供の内容が過剰であることや、議論のテーマに直結していない内容が含まれる場合、却って参加者が混乱し、議論の焦点を見失う恐れがある。
例えば、過度に専門的な情報や、議論の主題とは直接関係のない背景情報が提供されると、参加者はどの情報が重要で、どのような方向で意見を述べれば良いのかを判断することが難しくなる。コミュニケーション不安の自己呈示モデルを考慮すると、議論するテーマから外れた内容の情報提供を行うことは、参加者に混乱を招く可能性がある。具体的には、議論の方向性が不明確になり、参加者が「自分が何を話すべきか」を正確に把握できなくなることが挙げられる。このような状況では、自己呈示理論における「印象づくりの主観的確率(p)」が低下し、コミュニケーション不安が高まる可能性がある。
実際、筆者が参加したワークショップにおいて、全体的な説明のあと、首長からの問題提起が行われたが、その内容がその後の議論のテーマとずれていたことから、参加者が何について議論すべきか戸惑っていたという事象があった。
適切な情報提供のために
住民参加では、十分な情報量を提供しつつ、情報の内容を的確にする必要があり、この2つのバランスを取ることが課題となる。そのため、この課題を解決するための方法をとる必要が生じる。このような課題を解決するには、提供する情報の量と内容を適切にバランスさせることが重要である。この課題に対する具体的な方策として、広範囲の情報から、テーマに近い情報に近づけていくような「段階的な情報提供」や参加者が自ら欲しい情報を質問出来るようにする「双方向的な情報提供」といった方法が有効である。
段階的な情報提供
情報を効果的に提供するには、提供する情報の量と内容を適切に配置することが重要である。例えば、最初に計画の全体像や背景情報など、参加者間で共有すべき基本的な情報を提供した上で、テーマに直結する具体的な情報を議論の開始する直前に提示する方法が考えられる。また、情報提供の形式を工夫し、説明している情報と議論しているテーマの関わりが直感的に分かるように図示することも有効と考えられる。その際には適切な「ストーリー」になるように設計することが必要になる。このように、情報の提示順序や表現方法を工夫し、議論するにあたって、何を話す必要があるかを明確にすることが必要である。
双方向的な情報提供
双方向的な情報提供は、住民が受動的に情報を受け取るだけではなく、与えられた情報に対して質問や意見を自由に述べる機会を講ずることで、議論に積極的に参加させる手法である。この形式では、住民が質問や意見を自由に述べる場を設けることで、議論を双方向的に進めることができる。参加者は質問を行うことで、自らが必要だと思っている情報を受け取ることが可能となり、情報が理解できない事態や、テーマとぶれるような議論が行われることが起こる事態を回避することができると考えられる。
また、この方法を用いる場合でも、参加者がどのような質問をしてよいかが分からない場合などの事態が発生することがある。そこでファシリテーターは、参加者の反応を見ながらどのような情報が必要なのかを考えることも重要である。議論の状況に応じて、参加者が『今、足りない情報は何か』や『どのような観点から質問すれば良いか』を理解できるようファシリテーターがサポートすることが重要である。このサポートにより、議論の方向性が明確になり、参加者の質問も的確になる。
段階的な情報提供と双方向的な情報提供を組み合わせることが肝要
都市計画における住民参加は、計画の透明性や正当性を高めるために不可欠なプロセスである。その成功には、適切な情報提供が重要であり、参加者が十分な知識を得ることで、議論に主体的に参加できる環境を整える必要がある。本レポートでは、情報提供の効果的な手法として、段階的な情報提供と双方向的な情報提供の重要性を指摘した。まず、段階的な情報提供は、参加者が計画の全体像を理解した上で、議論の焦点に集中できるよう情報を順序立てて提示する方法である。この方法により、議論の方向性が明確になり、参加者間の認識が統一される。
さらに、双方向的な情報提供は、住民が質問や意見を自由に述べられる場を設けることで、議論の質を向上させる手法である。この形式では、参加者が議論に必要な情報を自ら求めることで、理解が深まり、積極的な関与が促進される。また、ファシリテーターが議論の進行を見極めながら適切な情報を補足することで、議論の停滞を防ぐ役割も果たす。
これらを組み合わせることで、住民参加の場におけるコミュニケーション不安を軽減し、参加意欲を向上させることが可能となる。最終的に、住民の多様な意見が計画に反映され、都市計画の質がさらに向上することが期待される。今後も、住民参加の有効性を高めるための具体的な情報提供方法の研究が求められる。