現代社会では、少子高齢化が進むなか、多死社会ともいわれる状況が続いています。特に70代における死亡率の高さから、終活を早い段階で始める人が増えているようです。遺言書を作成することは、その一環として重要な準備のひとつ。しかし、遺言書は、単に「財産を誰に遺すか」を記すだけでは不十分なのです……。本記事では、Aさんの事例とともに円滑な相続を実現するための注意点について、株式会社アイポス代表の森拓哉CFPが解説します。
資産2億円超・70代叩き上げ経営者、元妻に1億円をぶん取られ…元妻にベッタリ「40代自堕落息子」にはもう遺さない!妹に全財産を渡す遺言作成も、7年後に起きた「まさかの悲劇」【CFPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

意味をなさなくなった遺言書

妹にすべての財産を遺すとした遺言書は、妹Dさんが亡くなったことで意味をなさないものになってしまいました。

 

「Dさんの相続人が財産を相続する権利があるのではないか?」という勘違いがよくあるのですが、遺産の受取人が存在していない場合、その部分の遺言はもともとなかったことになります。つまり、すべての財産を相続できるのは息子であるCさんということになります。

 

もう一度遺言書を遺せばよいという方法はもちろんなのですが、気力、体力、認知判断能力が衰えたAさんにとって、再び妹Dさん以外の誰かに遺言を用意することは決して簡単な作業ではありません。唯一頼りにしていたDさんが先に亡くなり、頼りにしたい気持ちを埋めるのが、姪であるのか、甥であるのか、それぞれに家庭の事情を抱えていることもあり、気持ちの整理もつかなくなっていました。

 

Aさんはどうすればよかったのでしょうか。

 

遺言書を遺す場合、受取人が子どもの場合など、年齢が離れている場合は、子どもが親より万一先にという事態は想定しづらいものがあります。一方で、年齢の近い誰かに相続させたい場合、自分より先に受取人が亡くなることは十分に想定される事態です。

 

このようなケースでは予備的遺言といって、指定した受取人が万一先立った場合、その財産を次に誰が相続するのかをあらかじめ定めておくことができます。当たり前のことなのですが、ご自身の万一を考える際に、受け取る誰かの万一を同時に想定することは面倒であったり、ためらったりと、蓋をしてしまいがちです。考えること自体にブレーキがかかってしまうのです。

 

予備的遺言で指定する受取人に覚悟を決めてもらうことも場合によっては必要です。また、戸籍謄本の取り寄せなど、一定の手間も増えてしまいます。そのため、面倒なことは避けて、あとのことはあとで考えればよいと特に触れられることなく、手続きが進んでしまうことが少なからずあります。

 

Aさんの老後の暮らしは、妹Dさんだけに頼るというものでもなく、姪、甥にも最期のお世話となるということは十分に想定される事態です。そのときの心情だけではなく、これからの人生をどう生ききるかということも十分に計画を立てて、遺言書を遺すことが大切といえるでしょう。

 

 

森 拓哉

株式会社アイポス 繋ぐ相続サロン

代表取締役