デジタル機器の普及とともに、昨今は銀行のサービスもデジタル媒体へ移行しています。老後の生活のためにライフプランや資金形成の話し合いをすることはあっても、管理方法についてはどうでしょう……。意外なところで大きな障害を抱えることになるかもしれません。本記事ではAさん夫婦の事例とともに、デジタル機器が引き起こした資産管理トラブルについて、株式会社アイポス代表の森拓哉CFPが解説します。
銀行員「恐れ入りますが、お手続きできません」…年金月29万円・高齢夫婦、75歳夫の口座凍結危機を打破した73歳妻。その後に待ち受けていた〈取り返しのつかない事態〉【CFPが警鐘】 (※写真はイメージです/PIXTA)

資産管理デジタル化の潮流

スマートフォン、インターネットバンキングの普及とともに、紙の預金通帳から、デジタル通帳への切り替えを薦める銀行が増えています。ある民間調査によるとデジタル通帳の利用率は50%を超えており、デジタル化の流れは今後も止まらないでしょう。

 

顧客自らがデジタル通帳への切り替えを望む場合もありますが、金融機関からの積極的な働きかけによって、なんとなく選んでしまうケースも多いように思います。いつでもスマートフォンで銀行残高を確認できるなど利便性が高い一方、デジタルならではの「使いにくさ」も潜んでいるのがデジタル通帳の特徴ともいえます。パソコン、スマートフォンの操作に得手、不得手があるのは想像に難くありません。

 

今回は、そんなデジタル通帳への切り替えを行った高齢夫婦の事例を紹介していきます。

 

※事例は、実際にあった出来事をベースにしたものですが、登場人物や設定などはプライバシーの観点から変更している部分があります。また、実際の相続の現場は、論点が複雑に入り組むことが多々あり、すべての脈絡を盛り込むことは話の流れがわかりにくくなります。このため、現実に起こった出来事のなかで、見落とされた論点に焦点を当てて一部脚色を加えて記事化しています。

息子に心配は要らない…資産は自分たちで使って老後を豊かに

75歳のAさんは会社を定年退職後、3歳年下の妻Bさんとのんびりと老後を過ごしていました。一人息子のCさんは10年以上前に自立し、家庭を築き、年収も1,000万円を軽く超えるなど、立派に成長してくれました。日本とヨーロッパを行き来する海外勤務で忙しくしているものの、夫婦共働きのため、経済的な心配をする必要がありません。Aさん夫婦は自分たちの財産を息子に残すことを積極的に考えなくてもよい状況でした。

 

夫婦で年金月額29万円。Aさん夫婦は、目の前の生活に支障はないものの、旅行などをするための資産にもう少し余裕を持たせたいと考えています。そこで夫婦で相談し、住み慣れたいまの家を維持しながら手元現金を増やし、思い残すことのない豊かな暮らしを選びました。