現代社会では、少子高齢化が進むなか、多死社会ともいわれる状況が続いています。特に70代における死亡率の高さから、終活を早い段階で始める人が増えているようです。遺言書を作成することは、その一環として重要な準備のひとつ。しかし、遺言書は、単に「財産を誰に遺すか」を記すだけでは不十分なのです……。本記事では、Aさんの事例とともに円滑な相続を実現するための注意点について、株式会社アイポス代表の森拓哉CFPが解説します。
資産2億円超・70代叩き上げ経営者、元妻に1億円をぶん取られ…元妻にベッタリ「40代自堕落息子」にはもう遺さない!妹に全財産を渡す遺言作成も、7年後に起きた「まさかの悲劇」【CFPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

5人に1人が亡くなる…「70代」で終活を始める人が増えている

多死社会といわれるようになって久しく時間が経ちます。厚生労働省の人口動態統計によると、2023年の総死亡者数は157万5,936人。これから約50年間は年間150万人以上の人が亡くなる状況が続くと推計されています。高齢化社会ではありますが、70代の人口約1,630万人に対して約31万人の方が亡くなっています。10年間で70代の方が310万人亡くなると考えると、5人に1人は70代で亡くなると簡易的に考えることができるでしょう。最近の70代というとまだまだ元気で活動的、消費欲も旺盛です。

 

しかし、当たり前のことですが、「人はいつか死ぬ」というのは否定しようがない現実。人は生きているということが当たり前ではないと悟ったとき、最期のときを迎える準備をはじめます。その準備の1つに遺言書があります。一方で、自分が他界した場合に、“誰になにを遺すか”を考えることに集中するあまり、遺す相手にも同様に死が訪れるという前提を折り込まない遺言書も多いのです。

 

※事例は、実際にあった出来事をベースにしたものですが、登場人物や設定などはプライバシーの観点から変更している部分があります。また、実際の相続の現場は、論点が複雑に入り組むことが多々あり、すべての脈絡を盛り込むことは話の流れがわかりにくくなります。このため、現実に起こった出来事のなかで、見落とされた論点に焦点を当てて一部脚色を加えて記事化しています。

大手建設会社勤務、結婚後に不動産経営で独立…成功への道

Aさんの職業は不動産経営。親から引き継いだ不動産ではなく、自らリスクを背負い、銀行から融資をひき、一から不動産賃貸業を営んできました。

 

大学を卒業後、大手の建設会社で働いていたAさんは、会社員として勤めていた時代からこつこつと不動産経営の準備を重ね、独立を果たします。独立後も無茶な投資はせず、プロフェッショナルとしての高い意識をもち、借入やその他のコストを抑えていかに高収益を生み出せるかということに真剣に取り組み、Aさんの資産規模は大きく膨らんでいきます。独立後10年余りで所有資産2億円、家賃収入だけで年間2,000万円と経営は順調そのものでした。

 

傍から見ると、Aさんの人生も会社経営と同様に、順調そのものに映りました。ところが、家庭状況は経営状況と異なり、決して順調ではありませんでした。Aさんには、建設会社で勤めていたときに出会って結婚した妻Bさんと、1人息子のCさんがいました。しかし、独立して不動産経営のため金策に走ることに集中しすぎるあまり、子育てはほったらかし、夫婦関係も冷め切ったものとなっていたのです。