現在、多くの企業で60歳定年となっていますが、退職金の優遇などを条件に早期退職を募るケースが増えています。ただリスクを考えると、危ない橋は渡れない……そう思っている人も多いのではないでしょうか。そのような早期退職制度。真っ先に手をあげた人は、何を考えていたのでしょうか。
「会社を辞めてくれたら退職金1,000万円上乗せします」に歓喜の57歳サラリーマン、〈退職金3,200万円〉を手に念願の「ラーメン店開店」。客足上々も、8ヵ月でまさかの閉店「何かの間違いでは?」 (※写真はイメージです/PIXTA)

人気店へと階段をあがっていた矢先に「ラーメン店閉店」のワケ

前田さんが手にした退職金は3,200万円。いつかやってみたいと思っていたビジネスとは……ラーメン店でした。実は前田さん、無類のラーメン好き。結婚30年になるという奥さんとも、結婚前のデートはラーメン店ばかりだったといいます。

 

――自分が理想とする味のラーメンを食べてもらいたい……ずっと思っていたんですよね

 

ラーメン店開業に向けて、まずはノウハウを学ぼうとラーメン店でのアルバイトを3年。それから10坪強のラーメン店を開業します。物件の取得費のほか、内装・外装工事、厨房設備、備品、広告宣伝などに合計1,200万円ほどかかったといいます。

 

飲食店の経営は非常に厳しく、毎年多くの店が新規オープンするものの、3年以内に7割は閉店するといわれています。ちなみに帝国データバンクによると、2024年の飲食店の倒産は894件(負債1,000万円以上、法的整理)と過去最高を記録したといいます。

 

一方、前田さんのラーメン店は滑り出しは上々。口コミも少しずつ広まり、ピーク時のランチタイムには行列ができることも。ところが前田さんのラーメン店は開店から8ヵ月で休業、そのまま閉店となったといいます。客足もよく、繁盛店への階段を順調に上っていたのに……なぜ?

 

――健康診断でがんが見つかり、すぐに手術することになって。治療が長引き、店を続けるのが困難になったので、いったん閉める判断をしたんです

 

【年齢別「がん罹患率」】

20~24歳…24.4/20.2/28.8

25~29歳…41.3/31.4/51.8

30~34歳…76.1/46.6/107.0

35~39歳…125.4/68.9/183.6

40~44歳…210.7/113.5/310.7

45~49歳…314.6/185.5/446.8

50~54歳…435.9/329.4/543.5

55~59歳…629.3/615.5/643.1

60~64歳…945.5/1,109.3/785.7

65~69歳…1,375.2/1,786.6/986.9

70~74歳…1,819.7/2,520.1/1,193.6

75~79歳…2,247.6/3,262.3/1,432.9

80~84歳…2,382.7/3,515.4/1,585.8

※数値左より、男女計/男性/女性

※数値は人口10万人あたりのがん罹患率

※厚生労働省『全国がん登録(2020年)』

 

わずか8ヵ月で終わった挑戦。「こんなことなら、定年まで勤めあげたらよかった……そんな後悔をしているかと思えば、そんなことはないようです。

 

――がんがわかったとき、「何かの間違いでは?」と思いましたが、仕方がないですよね、こればかりは。年齢的にも病気のひとつやふたつ、かかるころですし。まったく後悔はしてないです。中途半端に終わってしまったし、出店費用を回収するだけ、まだ儲けてもいない。でも、長年の夢に向かって挑戦できたことは、この人生において有意義なものだったと思っています

 

現在、前向きに治療に取り組んでいる前田さん。医者からGOサインが出れば、心配ばかりかけている奥さんを労うために、旅行にでも行こうと計画を立てているといいます。

 

 

[参考資料]

厚生労働省『令和5年就労条件総合調査』

厚生労働省『全国がん登録(2020年)』