急騰・暴落が度々話題になる「FX」や「暗号資産」。ハイリスク・ハイリターンの投資商品に惹かれ軽い気持ちで始めると大損失を抱え、返済に追われて逆にやめられなくなってしまう負のスパイラルに陥ることも。いったい、どのような心理状態から来るものなのでしょうか。本記事ではFさん家族の事例とともに、リスクの高い投資についつい手を出してしまう人間の心理状態ついて、FP事務所・夢咲き案内人オカエリ代表の伊藤江里子氏が解説します。
妻の「建前」を真に受けて…世帯年収1,130万円の共働き・30代息子夫婦と同居したがる、年金少ない自営業・60代両親からの「まさかの告白」【CFPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

リスクの高い投資に潜む「心のクセ」

Fさんのお父さんは「失ったものをなんとかして取り返したい」という強い感情があり、焦りによって冷静な判断ができなくなっていたと考えられます。

 

FXで損失を出してしまった場合、本来ならそこで撤退すべきですが、「次こそは取り戻せるはずだ」という期待から、さらにリスクの高い暗号資産などにも手を出してしまったのです。人がリスクの高い投資に手を出し、損失を重ねてしまう背景には、心のクセが隠れています。特に「プロスペクト理論」という考え方は、投資における人間の心理を説明するうえで重要です。

 

プロスペクト理論(Prospect Theory)とは、1979年にカーネマン(Kahneman)氏とトヴァスキー(Tversky)氏によって提唱された、不確実な状況で意思決定をする際に、人が持つ思い込みや心理的なクセを考慮した意思決定の仕組みである。

 

プロスペクト理論では、人が得をしているときには安全を求め、損をしているときには大胆にリスクを取る傾向があるとされています。こうした心理には「心のクセ」が関係しています。次に、その代表的なものをみてみましょう。

 

1.損失回避バイアス

「損をしたくない」という気持ちは誰にでもありますが、この感情が合理的な行動を妨げることがあります。たとえば、10万円を失ったときの心の痛みは、10万円を得たときの嬉しさよりも強く感じるというものです。そのため、損をしたくないから少しの利益で資産運用を止めてしまう、逆に損をすると「どうにか取り戻したい」とさらにリスクを取ってしまうのです。

 

2.確証バイアス

自分にとって都合のよい情報ばかりを信じてしまうクセです。たとえば「これからが暗号資産だ!」と思っていると、その成功事例だけを見て安心し、リスクに関する情報を無視してしまうといったものです。

 

3.アンカリング・バイアス

最初に見た数字や情報が、その後の判断を引っ張ってしまうクセです。「以前は1ドル〇〇円だったから、また戻るはずだ」と思い込み、現状分析を怠ってしまうことがあります。

 

4.投影バイアス

今の状況がずっと続くと思い込んでしまうクセです。「最近の相場は好調だから、これからもきっと上がるだろう」と期待しすぎる行動がこれに当たります。

 

5.サンクコスト(埋没費用)効果

「いまやめたら、いままで費やしたお金や努力が無駄になる」と考え、引き際を誤るクセです。損失を出している投資を「まだ回復するかもしれない」と思い続け、撤退のタイミングを逃してしまいます。

 

こうした心理的なクセは誰にでもあります。ですがクセを知っていれば、冷静な判断をするきっかけになります。たとえば、事前に「どれだけの損失で撤退するか」を決めておけば、損失回避バイアスやサンクコスト効果に振り回されずにすむでしょう。