定年後も働くことを考えている人は多いでしょう。働き方によっては、年金の受給額が変わることをご存じでしょうか? 在職老齢年金制度は、働き方次第で年金額が変動する仕組みです。本記事ではAさんの事例とともに、本制度の注意点について、CFPの伊藤貴徳氏が解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
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在職老齢年金の仕組み

厚生年金と国民年金は、国(厚生労働省)が財政と運営の責任を負い、実際の事務作業(加入手続き、保険料の徴収、年金の給付など)は日本年金機構(平成22年に設立された公的法人)が行っています。

 

在職老齢年金とは、年金を受給しながら働いて収入を得ている方の年金額を調整する制度です。給与や賞与(総報酬月額相当額)と老齢厚生年金の基本月額を合計した金額が一定の基準(支給停止調整額)を超えた場合、その超過分に応じて年金が一部または全額停止されます。 

 

2024年度(令和6年度)の支給停止調整額は50万円です。このため、総報酬月額相当額+老齢厚生年金の基本月額が50万円を超える場合、超過分の1/2が老齢厚生年金の支給額から引かれます。 

 

Aさんのケース 

《収入状況》

月額給与:40万円 

老齢厚生年金の基本月額:12万円(老齢基礎年金6万円は支給停止の対象外) 

 

《計算手順》 

総報酬月額相当額+老齢厚生年金の基本月額を計算 

40万円(給与)+12万円(老齢厚生年金)=52万円 

支給停止調整額と比較 

52万円(合計)-50万円(調整額)=2万円(超過額) 

超過額の1/2を計算 

2万円 ×1/2=1万円(支給停止額) 

 

《実際に支給される年金額》

12万円(老齢厚生年金)-1万円(支給停止額)=11万円(支給額) 

 

Aさんは月額40万円の給与を得ながら老齢厚生年金を受給しています。しかし総報酬月額相当額が基準を超えたため、月額1万円分が支給停止され、実際に受け取れる老齢厚生年金は月額11万円です。老齢基礎年金(6万円)は全額支給されるため、合計で月額57万円(給与40万円+老齢厚生年金11万円+老齢基礎年金6万円)の収入になります。 

 

在職老齢年金制度の注意点 

年金制度は複雑です。在職老齢年金については、以下3点を押さえておきましょう。

 

1.老齢基礎年金は支給停止の対象外 

老齢厚生年金のみが調整対象であり、老齢基礎年金は影響を受けません。 

 

2.総報酬月額相当額に賞与も含まれる 

年間賞与を12で割った額が含まれるため、賞与の多い方は支給停止額が増える可能性があります。 

 

3.働き方を調整することで年金額を維持可能 

給与額を調整するか、勤務日数を減らすことで支給停止を回避する選択肢も検討できます。