(※写真はイメージです/PIXTA)
身の丈以上の「高級老人ホーム」…自宅を売却して入居を決断
――老人ホームに入ることにした
まさかの決断に、和夫さんのいっていることが一度では理解できなかったという由美子さん。和夫さんが入居を決めたのは、いわゆる「高級老人ホーム」。介護を必要としない自立の高齢者がターゲットのホームで、入居時に払う前払金は4,500万円、月額費用は20万円、食費は利用した分だけ毎食500円~1,000円ほどかかるとか。月22万円の年金を受け取っているという和夫さん。身の丈以上の施設ではないかと由美子さんは心配になったといいます。そのことを伝えると、「この家を売るから大丈夫、お金の心配はない」という和夫さん。
それでも心配を拭いきれず、和夫さんと一緒に入居予定だというホームを見学にいった由美子さん。瀟洒な邸宅風の外観。自然光が入り、明るいロビーラウンジ。高級レストランのようなダイニングのほか、落ち着いた雰囲気のライブラリーに、シアタールームや大浴場など、施設も充実。高級ホテルといわれても疑うことのないような豪華さ。
――プライドが高く、見えっ張りな父が選ぶだけの施設でしたね。掃除も洗濯も食事も、すべて面倒をみてくれるので、娘としては安心できる施設だと思いました
こうして老人ホームに入居していった和夫さん。ホテルライクな日々を楽しんでいるらしく、たまに来るLINEのメッセージには自慢気に写真も添付されてくるのだとか。充実した日々を送っているのなら安心と思っていましたが、意外にもそのときは訪れます。ホームに入居して4ヵ月を過ぎたあたり、和夫さんから「老人ホームを出ていきたい」という相談があったのです。
すでに自宅は売却の契約を交わし、退居したからといって戻ることはできません。「一時的でいいから、お前(由美子さん宅)に住まわせてくれないか」という相談でした。「あのプライドの高い父からお願い事なんて」と驚きましたが、それ以上に気になるのが、なぜ退去なのか、その理由。
話しづらそうにしていましたが、どうも入居者との相性がよくなかったことが判明。ホームには会社を経営していた人が多く、教員だった和夫とは生きてきた世界が違い過ぎたよう。話をしていてもチンプンカンプンなことばかりで、どことなく「教師は世間知らずだな」といわれている気がしたのだとか。「周囲からバカにされている」という雰囲気(あくまでも和夫さんの主観)に耐えきれず、「こんなホーム、出て行ってやる!」という気持ちになった……という顛末でした。
――確かに40年近く教師をしてきた父は、世間からズレているところはありますが……変にプライドが高く、あまり共同生活には合わないのかもしれません
結局、鼻をへし折られ、退散する形となった和夫さん。自宅を売ってしまったことを後悔しながら、由美子さん宅に居候をしているといいます。
どんなにラグジュアリーな老人ホームであろうと、相性が悪く、退居となるケースは珍しくはありません。その見極めは、無駄な出費を避けるためにも、できればクーリングオフ期間(たいていは90日)にしたいもの。また自宅を売るタイミングにも気を付けたいもの。入居後、しばらく経ち、「このまま住み続けたい」と思ってからのほうが、和夫さんのような失敗を避けることができます。
[参考資料]