「銀行なら安心」その思い込みが招いた結末

「山田さん、こちらの商品なら、ご要望にぴったりですよ」

銀行の窓口で、笑顔で話しかけてくる中村課長(仮名)。山田幸太郎(仮名、65歳)さんは15年来の付き合いがある彼に、家族同然の信頼を寄せていました。毎週末には同じ野球チームで汗を流し、お互いの家族のことまで知り尽くした仲。中村課長は山田さんの退職後の生活設計についても親身になって相談に乗ってくれていました。

「山田さんの老後資金、預金で置いておくのは実にもったいない。インフレで目減りしていくばかりですから」

確かにその通りでした。定年まであと2ヵ月。年金は月21万円の見込み。退職金は3,000万円程度になりそうです。決して少なくない金額ですが、医療費の増加や予期せぬ出費を考えると不安が募ります。

「この投資信託はまだできて間もないのですが、2年間の平均利回りは11%です。元本保証こそありませんが、世界の優良企業に分散投資して、安定的な投資成果を目指すものです」

後から思えば、ここで立ち止まって、もっと慎重に検討すべきでした。しかし当時の山田さんは、「銀行の窓口で勧められる商品なら、間違いないはず」という思い込みに支配されていたのです。

3,000万円の退職金が辿った予想外の運命

退職金が銀行口座に振り込まれた1週間後、山田さんは中村課長の勧めに従い、退職金3,000万円のうち2,000万円を課長お勧めのアクティブ型投資信託に振り向けました。「残りの1,000万円は、緊急用の資金として特別金利の預金に預けておきましょう」という彼のアドバイスも、とても的確に思えました。

最初の3ヵ月は順調でした。評価額は2,100万円まで上昇し、「これなら老後も安心だ」と胸を撫で下ろしていました。ところが、その後の世界情勢の急変で、市場は大きく下落。あっという間に評価額は1,600万円まで目減りしてしまいました。

「中村さん、このままだと大変なことになります。どうすれば……」

しかし、彼の返答は意外なものでした。「山田さん、長期投資なら下がった時こそチャンスです。むしろ、追加で購入するくらいの気持ちで……」

その言葉に違和感を覚えました。これは本当に私のためを考えてのアドバイスなのか? それとも……。