母が急死、深く考えず「家族葬」を選択したが……

会社員の伊藤隆さん(53歳・仮名)の母・弓子さんは、79歳で亡くなりました。5年前に父が亡くなってから一人暮らしをしていた母は、買い物をしている最中に突然倒れ、救急車で搬送されたものの助かりませんでした。

伊藤さんにとって尊敬する母との急なお別れでしたが、悲しむ暇もなくさまざまな手続きに追われます。その中で、葬儀の形式を決めるにあたって、伊藤さんは迷わず「家族葬」を選びました。

母と葬儀について話したことはありませんでしたが、葬儀会社がいうには最近は家族葬が人気とのこと。家族葬は、親族など限られた人で故人を見送る葬儀のスタイルです。費用も70万円ほどで済むとのことで、なにより「家族だけに静かに見送られることを母も望んでいるだろう」と考えました。妹もそれに反対することはありませんでした。

そして、バタバタする中で母の親しい人達にも知らせることもせず、参列者は自分と妹の家族、そして母の弟だけという小さな葬儀を終えました。しかし、葬儀を終えて誰もいなくなった実家に行ったとき、母の部屋にあった机から一通の手紙を見つけました。そこには思わぬことが書いてあったのです。

「私が旅立つときには、お世話になった方々にきちんと連絡をしてください。たくさんいるので連絡先はまとめてあります。お葬式の費用は銀行口座に用意してあるので、これを使ってください」

母は、父亡き後は年金月14万円ほど(自分の年金と遺族年金など含む)で暮らしていました。伊藤さんは「急なことだったから母は葬儀代も用意していないだろう」と思い込んでいましたが、口座を見てみれば200万円ものお金がきちんと用意されていました。

また、伊藤さんは母の交友関係をそれほど深くは知りませんでしたが、社交的で長年同じ土地に住み、60代まで地元のスーパーで働いていたこともあり、母には友人や知人が想像以上に多かったのです。それを実感したのは、葬儀が終わって母の訃報を関係者に伝えた後のこと。伊藤さんはさらに後悔を深めることになりました。

親の最期をどう見送るか……。それは、遺された者にとって大きな課題です。後悔のない見送りをするために、親の生前にすべきことと葬儀について一緒に考えてみましょう。