ベテラン銀行員だったFPが明かす「商品販売の知られざる実態」

この苦境の中、山田さんは地元で評判の独立系ファイナンシャルプランナー、永瀬財也さん(仮名)に相談することにしました。彼は30年以上銀行で銀行の資金運用や投資信託を販売した経験も持つ、まさに「内部事情」を知り尽くした専門家でした。

「銀行員は決して悪意があってこうした商品を勧めているわけではありません。しかし、たとえ別の金融機関にその人にとって最適なものがあるとしても、自身の銀行の取り扱い商品の中から勧めるしかありません」と永瀬氏。

「銀行では、コンプライアンス上のリスク管理という観点から、取り扱う商品数を意図的に制限していることも多いのです。結果として、顧客にとって本当に最適な商品を、その銀行では取り扱っていないということも珍しくありません」

「また、銀行で投資商品を販売している銀行員には、投資のプロはほとんどいません」永瀬氏は、銀行の商品販売の実態について、深刻な問題を指摘してくれました。

「彼らは自身で投資経験が乏しく、商品の本質的なリスクを理解していないことが少なくありません。彼らの知識の大半は研修で得たものに限られており、銀行や職員を投機的な取引のリスクから守るため、実践的な投資経験を積む機会さえ社内規定によって制限されているのです。確かに接客の場面では、研修で徹底的に練習したロールプレイングのおかげで、まるで投資の専門家のように見えるかもしれません。しかし、その理解は表面的なものにとどまっていることが少なくありません」

組織としての課題も見過ごせません。「銀行員には販売目標やノルマが課せられており、時としてそれが顧客の利益よりも優先されてしまうことがあります。もちろん、法令遵守は大前提とされていますが、収益目標達成への圧力は常に存在しているのです」

「決して窓口担当者に悪意があるわけではありません」と永瀬氏は付け加えます。「むしろ、善意で行動していることがほとんどでしょう。しかし、こうした状況があることを前提に、金融機関とは付き合っていく必要があるのです」

資産を守る!60代からの賢い運用術

「ではどうすれば良かったのでしょうか?」という山田さんの問いに、永瀬氏は具体的な改善策を示してくれました。

「投資を始める前に、最も重要なのは慎重な判断と準備です」と永瀬氏は説明を始めました。「誰かから勧められた商品をそのまま受け入れるのではなく、必ず自分で十分に調べるか、独立した投資の専門家に相談することをお勧めします。これは投資の成功を左右する最初の重要なステップとなります」

続けて永瀬氏は、投資の基本設計の重要性を強調します。「投資を始める前に、なぜ投資をするのか、その目的と期間を明確にすることが大切です。特に退職後の資産運用では、中短期的な視点でのリスク管理が極めて重要になります。また、検討している商品の仕組み、実績、リスク、運用実績、純資産総額などを詳しく確認することを忘れないでください」

資金配分については、特に慎重に考慮する必要があると永瀬氏は指摘します。「まず、日々の生活に必要な資金や緊急時対応資金は安全な預金で管理しておく必要があります。決して全資産を投資に回すようなことは避けるべきです」

60代からの具体的な運用方針については、より保守的なアプローチを推奨します。「インフレ対策としては、安全性の高いインデックスファンドの活用をお勧めします。アクティブ型投資信託や個別株への投資は、十分な知識と経験がない限り避けた方が無難です。代わりに、リスクを抑えたバランス型投資信託の検討や、定期預金と国債で基礎的な生活費を確保する方法を考えましょう。また、投資信託を選ぶ際は、手数料の低い商品を厳選することで、長期的なリターンの向上が期待できます」

このように、年齢や生活状況に応じた適切な投資戦略を組み立てることで、より安定的な資産運用が可能になるのです。