(※写真はイメージです/PIXTA)
相手に与えるのは、好印象ではなく適正印象
信頼を得るためには、相手によい印象を持ってもらうことが一番です。しかし、実は好印象よりも大切なことがあります。それが、「適正印象」です。これは、私が勝手に名付けた造語ですが、その人の「人となり」がわかる印象のことを意味します。
私は25年間、航空会社で客室乗務員として勤務しておりました。客室乗務員の大きな役割として、サービス要員であることと保安要員であることの二つがあります。
サービス要員とは、皆さんがイメージする通り、機内でにこやかにお食事やお飲み物をサービスしたり、免税品を販売したりする役割です。一方で、保安要員とは、緊急事態や不測の事態が起こった場合、お客様の命と安全をお守りする役割です。普段は笑顔でお客様に接していますが、緊急事態が起こると笑顔を消し、ときに命令口調でお客様に指示を出すよう訓練されています。
2024年には、羽田空港で海上保安庁の小型機とJALの航空機との衝突事故が大きく報じられましたが、着陸寸前までにこやかにサービスをしていた乗務員が、事故発生時には冷静かつ適切にお客様を誘導し、全員を無事に脱出させました。恐らく、このときの客室乗務員は、厳しい顔つきだったことでしょう。
そんな二つの役割を持つ客室乗務員です。普段はニコニコしてサービスするのはよいのですが、緊急事態のときにもニコニコと笑顔で誘導されたとしたらどうでしょうか。「この乗務員、大丈夫か?」と思われてしまいます。一方で、普段のサービス時にニコリともせずお出迎えされ、無表情で食事を提供されたらどうでしょうか。きっと、「感じが悪い」と思われ、大きなクレームになることもあるでしょう。
極端な例かもしれませんが、お客様に安心、安全、快適な印象を与えるのは、乗務員として「適切」な振る舞いです。それが、「適正印象」になります。通常の機内サービスでは、お客様に快適におくつろぎいただけるよう優しく優雅な印象を与え、いざという緊急事態では、「この乗務員の指示に従えば大丈夫!」という安心感を持っていただくことが重要です。
つまり、「適正印象」というのは、その職業やその人個人、または役職に与えられた役割と印象が一致していることをさします。それが一致して初めて信頼されるということなのです。
客室乗務員の場合の「適正印象」とは、乱れのないきちんとした髪型に整えることであり、薄暗い機内で溌溂とした印象を与えるよう、少し濃いめの口紅としっかりめのメイクを施すことであり、非常時にはお客様に不安を抱かせることなく安心して身の安全を任せてもらうために、常に姿勢を正し、健康的な容姿を保つことです。
これは客室乗務員に限ったことではありません。どんな職業であっても、その役割や役職に応じた相応しい印象を与えることで、人は安心感を抱き、信頼を寄せるのです。
初対面で信頼を得るためには、相手に違和感を与えないこと。外見に留まらず、話し方や立ち居振る舞い、表情なども意識することが重要です。「話してみてわかる」のではなく、言葉を交わす前に相手に「適正印象」を植え付けることができれば、まずは信頼の第一歩をクリアしたことになるのです。
山本 洋子
株式会社CCI 代表取締役
人財育成コンサルタント・キャリアコンサルタント・元JAL国際線チーフパーサー・客室マネージャー