子どもの心配ばかりしている親。しかし年を重ねていくと立場は逆転し、親の心配は尽きなくなるものです。近くに住んでいればこまめに様子を見に行けるものの、遠距離だとどうしても普段の様子はわからないもの。そんな親のいつもの様子を知ったとき、ショックを受けることも珍しくありません。
年金月12万円〈70歳の母〉が末期がんで〈45歳の娘〉緊急帰国。遺品整理で訪れた20年ぶりの「実家の市営団地」で泣き崩れたワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

緊急帰国から3ヵ月後に母死去…20年ぶりの実家へ

いつまでも親が元気なわけではありません。美智子さん、70歳で帰らぬ人に。原因はがん。見つかったときには手遅れだったといいます。それを聞いた美智子さんは緊急帰国。3ヵ月ほど病院と、近くにとったホテルを往復する生活を送り、美智子さんを看取ったといいます。

 

こんなに早く、母との永遠の別れが訪れるとは……結婚してから、何度かアメリカに来てくれることがあったとか。一方、智子さんが帰国したのも数える程度。毎回実家に帰ることはなく、美智子さんが東京に出てきて一緒に観光してまわるというのがお決まりのパターンだったといいます。美智子さん、「あんたが家に来るとうるさそうだから」と、智子さんが家に来るのを遠ざけていたという事情もあります。そのため、遺品整理で訪れた実家は、実に結婚以来の20年ぶり。

 

ただ想像していた以上に、美智子さんがひとり暮らしをしていた市営団地はきれいでした。というよりも、必要最低限のものしかなく、散らかしようがなかった、というほうが正しいでしょうか。そんな部屋で見つけたのは、美智子さんの預金通帳と1冊のノート。通帳はこまめに記帳され、美智子さんの普段の暮らしを垣間見ることができました。

 

年金は2ヵ月に一度、24万円が振り込まれていました。月12万円。手取りは10万円を上回る程度です。年金だけではとても生活が苦しかったことでしょう。それでも智子さんの子どもたちの誕生日やクリスマスのときには、必ずプレゼントを送ってきてくれました。アメリカで買ったほうがずっと安いものだったので、「わざわざ送らなくてもいい」といったことがありましたが、「気持ちだから」と智子さんの意見を受け入れることはなかったといいます。

 

ノートはレシートを貼るだけの家計簿。それをみると、美智子さんの普段の生活が鮮明になってきます。

 

――本当に必要最低限のものしか買っていない、何ひとつ無駄なものを買っていない……最近は特に苦しかったんじゃないかな、生活……

 

何ひとつ親孝行をしてやれなかった後悔が押し寄せて、智子さん、気づくと嗚咽していたといいます。

 

内閣府『国民生活に関する世論調査(令和6年8月8日~9月15日)」』によると、「あなたのご家庭の生活は、去年の今頃と比べてどうでしょうか。」との問いに対して、「低下している」が前回の35.9%から33.0%と減少。一方で「同じようなもの」が58.3%から61.9%に増加しました。生活が向上したというよりも、浮上できずにいる、といったほうが適切かもしれません。

 

そんななか「充実感を感じるとき」を尋ねる設問で、「家族団らんのとき」と回答したのは全体の47.3%。ただ年齢別でみていくと、「70歳以上」は33.5%と、全世代で最低でした。これは、おひとり様高齢者が増加の一途を辿っていることも影響しているでしょう。

 

日本とアメリカ。あまりに遠すぎるものの、もっとしてあげられることはあったはずなのに……後悔の念は日に日に大きくなっているといいます。

 

[参考資料]

外務省『海外在留邦人数調査統計』

セコム株式会社『離れて暮らす親に関する意識調査』

内閣府『国民生活に関する世論調査(令和6年8月8日~9月15日)」』