自慢の息子だったが…過重労働の餌食に
近所でも評判の息子は、夫婦の自慢。「エリート官僚の息子さん」の近況を尋ねられることもしばしば。また、下の2人の子どもも、兄に負けず劣らず、聞けば誰もがわかる大企業への就職を果たし、夫婦は鼻高々だったといいます。
――自慢のできる息子たち……子育ては経済的にも大変だったけど、頑張ったかいがありました
次男、三男は結婚し、孫も誕生。お盆と正月の帰省が何よりも楽しみ……そんな穏やかな老後は、国家公務員として頑張っていた長男・智さんが仕事を辞め、実家に戻ってきて一変します。智さん、いわゆる心の病気で長期休職。復帰は望める状態ではなく、そのまま公務員を辞めて実家に戻ってきたのでした。現在、ほぼ自宅から出てこない引きこもり状態にあるといいます。
人事院『公務員白書 令和5年度年次報告書』によると、令和4年度、精神及び行動の障害による長期病休者数は5,389人。男女別では、男性3,710人、女性1,679人。全職員に占める割合は、全体で1.92%、男性職員では1.72%、女性職員では2.61%でした。
ここ5年の推移をみていくと、人数は3,818人→5,389人と1,500人ほど増加。全職員に占める割合は1.39%から1.92%と大きく増えています。男女別では、男性2,898人(1.31%)→3,710人(1.72%)、女性920人(1.68%)→1,679人(2.61%)と、特に女性職員の増加が顕著です。
年齢別にみていくと、人数では50代が多く1,471人。割合でみていくと、20代が多く全職員の2.61%。10代が2.45%、30代が2.01%、40代が1.76%と、若い世代での割合が大きくなっています。
増加の理由のひとつにあげられているのが、長時間労働。働き方改革が進んでいるとはいえ、上限を超えて超過勤務を命ぜられた職員の割合は本府省の自律部署で15.3%、他律部署*では77.7%となっています。
*他律的業務(業務量 、業務の実施時期その他の業務の遂行に関する事項を自ら決定することが困難な業務をいう。)の比重が高い部署。他律的業務の比重が高い部署以外の部署を自律部署という
人の噂があっという間に広まる田舎です。また心の病に対しても、都会ほど理解が及んでいません。噂話にはさらに尾ひれが付いて広まっていきます。
――あそこのエリートの息子が……
そんな声が聞こえてきては耳を塞ぎたくなる毎日に変わってしまったとか。そして人の目を気にするあまり、夫婦自体も必要最低限の外出以外はしないようになってしまったといいます。
――智の病気の治療のためにも、今のような状態はよくないと思っています。でもこんな田舎だから、みんな噂話が好きで……
なかなか一歩を踏み出せないでいるといいます。
[参考資料]