人生の大きなターニングポイントである定年。多くのサラリーマンがこれを境に給与が大きく減少します。どんなに備えていても給与減のインパクトは大きく、何とか減少分を補填したいと退職金の運用を考える人も。これが投資デビューという人も珍しくありません。ビギナーズラックに見舞われウハウハの人もいれば、幸運を使い果たす人もいるようです。
銀行の言うことなんて高尚すぎで分からねぇよ…月収27万円・60歳再雇用サラリーマン、給与4割減の補填に「退職金全額投資」も大後悔 (※写真はイメージです/PIXTA)

よくわからなくても「投資にチャレンジ」という投資家が意外と多い

特に今年は、1月より新しいNISA制度がスタートし、大々的にPRもされていたので、「この機会に自分も投資にチャレンジ」という人も多かったようです。

 

小林徹さん(仮名・60歳)も老後不安から退職金の運用を考えたひとり。知人からNISAを勧められたといいますが、よくわからず、金融機関が主催する退職金セミナーにも参加したそうです。しかし人には向き不向きがあるのか、それでもよくわからないことばかり。

 

――銀行のいっていることなんて、高尚過ぎてわからねぇよ

 

それでも「始めてみないと何も起こらない」と、まずは投資を始めることにしたといいます。

 

日本証券業協会が20歳以上の有価証券保有者に対して行った『個人投資家の証券投資に関する意識調査』によると、「新NISA口座開設をきっかけに初めて有価証券を購入した投資家」は20~30代が最も多く33.5%。60代14.9%、70代7.3%でした。

 

「なんのためにNISA口座を保有するのか?」理由を尋ねると、全世代でトップが「老後の生活資金づくりのため」で63.4%。年代別にみていくと、30代以下で51.8%、40代63.1%、50代73.8%、60代前半69.9%、60代後半71.7%、70代以上が59.2%と、60歳定年を境とする50~60代で特に多いという結果に。

 

また金融機関の対応として「商品の提案は自分のニーズに 即したものでだった」は66.1%の一方で「当てはまらない」さらには「覚えていない、わからない」は8.0%。「商品のリスクや特性の説明はわかりやすかった」は69.2%の一方で「当てはまらない」さらには「覚えていない、わからない」は9.2%。「手数料に関する説明はわかりやすかった」は65.1%の一方で「当てはまらない」さらには「覚えていない、わからない」は12.3%でした。

 

*「当てはまる」「どちらかというと当てはまる」の合計

 

1割前後は「よくわからないけど」をそのままに投資を行っているよう。さらに若年層はネットが中心で金融機関から直接的な説明を受けていないケースも多いことを考えると、この設問でネガティブな回答をした多くが中高年層と考えられます。前出の小林さんがまさにこのタイプ。「よくわからないけど……投資をしている」という人たちです。

 

よくわからないままNISAで投資デビューを果たした小林さん。当時の市況がよかったこともあり、資産はどんどん増えていったといいます。そこで気をよくした小林さん、NISA口座以外でも投資をスタート。退職金のほぼすべてを投資信託や株式に変えてしまったとか。その突拍子もない行動に小林さんにNISAを勧めた友人も唖然としていたとか。

 

その後の市場の混乱ぶりは多くの人が知るところ。「やばい、急いで売らないと俺の退職金がなくなってしまう!」「投資なんてするんじゃなかった!」とパニックになっていた小林さんを、友人は必死に止めてくれたといいます。「あのとき、すべてを売っていたらと思うと……ゾッとしますね」と小林さん。少しずつではあるものの、金融の知識を深め、過去の自分がいかにダメだったかを反省するばかりだといいます。

 

[参考資料]

厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』

厚生労働省『令和5年就労条件総合調査』

日本証券業協会『個人投資家の証券投資に関する意識調査』