妻のへそくりだが…「名義預金」で追徴課税の危機
――もしかしたら、私の知らないところで、いつの間にか資産形成が進んでる!?
そんな期待をしてしまう、夫婦のへそくり事情。まさしく妻がこっそりとへそくりをしていたという伊藤誠さん(仮名・67歳)。現役を引退し、妻・恵子さん(仮名・65歳)と老後の生活を話しているときに、へそくりが発覚したといいます。
――あなたは趣味にお金使っちゃうから。余ったお金は私がコツコツと貯めておきました
そういって差し出した貯金通帳には2,000万円もの大金が入っていました。誠さんの年金は月22万円、専業主婦だった恵子さんは月7万円。夫婦で29万円ほどになることは、誠さんも把握済み。あとは誠さんが把握していたのは、自身の退職金1,500万円。「これだけあれば、何とかなるだろう」と思っていたという誠さんですが、ふと湧いて出てきた2,000万円に歓喜したといいます。
――結婚して40年。専業主婦の妻は「お金がない、お金がない」とずっといっていました。長い間、騙され続けていたんですね、私は(笑)
そんな嬉しい妻の秘密を友人に話したところ、「それって相続のとき、大変なんじゃない?」とひと言。「んっ?」何やら雲行きが怪しくなってきました。
夫から生活費をもらい、余った分を妻名義の預金に貯め込んでいるような場合、「名義預金」として相続税の対象になることがあります。名義預金とは、実際のお金の所有者と名義が異なる預金のことをいい、相続の際に課税対象になるのです。
実際にへそくりの所有者を争った裁判例があります。たとえば平成19年10月4日に行われた国税不服審判所。生活費を切り詰めて貯金していた、妻名義の郵便貯金は、実質的には故人の財産であり、相続税を追徴課税する、という税務署側の主張を不服とする申立てです。結局、
・妻は婚姻時、持参金や両親からの相続財産はなく、結婚後も定職に就いていない
・妻の貯金は夫が管理していたと認められる
・妻は贈与税申告書を提出したことは一度もなく、生前贈与を受けていた認識はないと認められる
ということからへそくりは名義預金とされ、妻の貯金だと認められませんでした。このようなリスクがあるへそくり。心がある人はプロにアドバイスをもらい、適切に処理をしたほうがいいかもしれません。
[参考資料]
金融広報中央委員会『令和5年 家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]』