
意思決定スタイルとスピード化
日本独特の多層的な階層型組織や巨大なビラミッドがいくつにも重なる組織構造を前提としても、意思決定はしなくてはなりません。各部門(横)、各階層(縦)のコンセンサスを得るために組織内で動くことが必要になっています。この動きが意思決定までの時間に大いに影響を及ぼすのです。
たとえば部門間の調整を行うためには、意思決定が関連する各部門に対し、どのようなメリット・デメリットがどのタイミングで発生するのかを明確にしなければなりません。決定内容の詳細説明が関連する各部門で行われるため、大幅に時間がかかってしまうのです。さらに、財部部門は会社全体のメリットを考えなければなりませんので、とくに強い関心を表します。
ある会社では、各部門から1週間に20〜30通の意思決定に必要な申請書が財務部門に回申されてきます。それを受け付ける財務部門の担当者は、読み込むだけで莫大な時間が必要になるでしょう。そのあとに内容を理解し捺印のうえ、税務部門の上司に回申されていきますので、その段階で自分の責任をかけて同じように内容を理解し捺印する作業が入ります。このように説明したことで、なぜ多大な時間を要してしまうかがご理解できるのではないでしょうか。
この間、発信者にとっては、状況がわからない状態が続きます。一体いつになったら自分の申請に対して全社的な意思決定ができるのかが不安になることでしょう。ひどいときには、すぐにパートナーに発注しないと予算内でできない状況が生まれてきてしまいます。場合によっては作業を行う人員を確保している建設プロジェクトなどもあるため、発信者にとっても毎日が針のむしろ状態が続き、ストレスが多くかかる時間です。階層型組織でかつ部門別の責任分割体制の企業では、圧倒的にスピード感が落ちることになります。
日本に限らず近年のビジネスは、スピード感が勝負といわれています。善し悪しは別として、顧客のニーズが短期に変わってきてしまうことが原因です。これは消費者の指向やトレンドが急速に変わるからです。ソーシャルメディアの影響により、食品や製品が瞬く間に広がり、それに追随するかたちで顧客ニーズが動くことになります。
また、多様化する選択肢も市場をつくっており、メーカー側もそれを捉えようと新製品を市場に投入することが頻発に登場します。消費者は多くのオプションから選択できるのです。デジタル技術がますます進化しており、情報が簡単にアクセスでき、消費者は常に市場の動きや新製品の性能・普及状況などで購買意思決定がはやくなってきています。
心理的安全性を高めることによる効果
心理的安全性の高い組織では、日本企業独特といわれる遅い意思決定を文化や仕組みを効率化に変えることにより、スピードが劇的に上がってきます。
「信頼とチームワーク」では、従業員同士の信頼と協力を築くことになるのです。信頼があると、情報がよりスムーズに共有され、チーム全体で迅速に意思決定を行えます。組織内の従業員が多次元階層型の組織形態であっても、オープンなコミュニケーションを取れることにより、情報がスムーズに流れ、問題や内容が迅速に特定され、意思決定が早期化されます。
スイスに本拠地を置く国際経営開発研究所が2023年6月に発表した「世界競争力ランキング」では、日本は65か国中過去最低の35位、アジア太平洋地域でも14国中11位という結果でした。「経営の効率化」が課題になっているようです。このような現実を打開するためにも、心理的安全性を中心とした改革を積極的に進める経営が必要です。
野口 雄志
グリットコンサルティング合同会社
代表
※本記事は『最大の成果をあげる心理的安全性マネジメント 信頼関係で創り上げる絶対法則』(ごきげんビジネス出版)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。