スイスの国際経営開発研究所が発表した「世界競争力ランキング」で、日本は過去最低の35位。特に経営の効率化が課題として指摘されています。その要因の一つとして考えられるのが、日本企業に多く見られる階層型組織構造。複雑な階層構造は意思決定を遅らせ、組織全体のパフォーマンスに影響を与えているようです。本記事では、上級心理カウンセラーである野口雄志氏の著書『最大の成果をあげる心理的安全性マネジメント 信頼関係で創り上げる絶対法則』(ごきげんビジネス出版)より一部抜粋・再編集し、この構造がもたらす課題と、心理的安全性を高めることによる効果について解説します。
65か国中35位…日本が世界との競争に負ける、諸悪の源「根回し文化」の根本原因 (※写真はイメージです/PIXTA)

日本企業に多い「階層型組織構造」とは?

階層型組織構造は、日本の企業に多い構造で、社長を頂点としそれぞれの組織が階層的な階層構造で管理されている形態です。組織はトップからボトムへと階層的に分かれ、各レベルで責任と権限が異なります。

 

情報や意思決定は通常、上位の階層から下位の階層に伝達されます。下位から上位に提言が上がっていくケースもありますが、最上位の意見になるにはたくさんの階層を経由(承認)することがルールとして決まっており、長い道のりになってしまうのです。大きな規模の会社では、新入社員から社長への提言が届くことは稀有といっても過言ではありません。これは経営層と一般社員の心の距離にも影響を与えます。

 

「自分たちの意見は取り入れてもらえない」「何をいっても変わらない」といった否定的な意見が職場内に蔓延すると、極めて雰囲気が悪くなってしまうのです。大きな組織であればあるほど距離が離れていますので、その場合に力を発揮するのが中間の階層に位置する人たちの情報伝達能力や気配りなどの役割が重要になってきます。

 

日本企業では三角形のなかに、さらに多くの三角形が存在します。これは階層構造が業種別の部門や地方にある支店ごとに三角形が存在するため、さらに複雑になってしまうのです。このような組織構造のなかで心理的安全性の肝である安心・安全な発言や議論をしていかなければなりません。

組織階層の中で、社員が「コンセンサス」を取る方法

私が以前勤めていた会社も大きな組織でした。そのなかのどこに自分が所属するかで、多くの階層組織に埋もれてしまう人がたくさんいました。

 

大きく分けると本社組織と支店組織がありました。本社組織のなかにいると、同じ建物のなかに社長以下上層部の役員が勤務していたので、時には姿を拝見することもあり、比較的身近に感じる立ち位置でした。しかし各地にある支店(私のいた会社は全国に400の支店、営業所がありました)に勤務すると、そこの組織(三角形)のトップは支店長になります。規模の大きな地域を管轄する支店に属していると、組織のトップにいる支店長が2人になるわけです。

 

私が入社したばかりのときは、組織の仕組みを理解するのに時間が必要でした。それぞれの支店規模で役割や権限が決まっていましたので、最終決定はその権限にあわせた支店長が行っていました。

 

組織階層のなかで活動を行うときのコンセンサスを得ていくわけですから、相当の力やテクニックが必要になってきます。ここでいうテクニックは、よくいわれる「社内調整」という行為です。あまりよいことではありませんが、日本企業や組織の上位役職者の主たる仕事は「調整」や「根回し」などと、まことしやかにいわれています。

 

組織のなかで活動を成功裏に遂行するには、コンセンサスは協力や合意を重視する意思決定のアプローチです。組織のメンバーが協力し、共通の目標や意見に合意を形成することを重視します。

 

コンセンサスのプロセスでは、議論や対話を通じて意見をまとめ、一致した意思決定がなされることが目指されます。しかしこれだけ組織が巨大になると、全員の一致した意思決定がなされることは希有になるため、ある条件のもとで意思決定をしなくてはなりません。最終的な意思決定はトップが行い責任も負いますが、組織としては最も成果の上がる意思決定を目指すことになります。そのためには構成する社員の高い意識や想いが重要です。

 

日本の企業に圧倒的に多い階層型組織における意思決定、そこに至る心理的安全性の確保は、会社の成否にもかかわってきます。そこにはさまざまな工夫が必要になります。多くの社員の意見や想いが加味された最終意思決定は、施策を成功させるためになくてはならないプロセスです。