居室で転倒、動けなくなり助けを呼んだが…
常に近くに介護士や看護師のいる施設は、何よりも安心だったという高橋さんですが、トラブルが起きたのは入所から2ヵ月目。居室でつまづき動けなくなった高橋さん。何度もコールを押したところで、誰も来てくれません。
――お願い、誰か来て!
何度も何度も叫んでも、誰も来てくれず途方に暮れていたところ、たまたま通りがかった入居者が動けなくなっている高橋さんに気づき、スタッフまで助けを呼びにいってくれたといいます。
――異変は前から起きていたんです
トラブル後、落ち着いてから話してくれたのは、高橋さんが入居する老人ホームの異変でした。そもそも、この老人ホーム、ベテラン介護士が2人ほどいるほかは、介護士になりたての新人ばかり。そんな歪な組織、うまくいくはずがなく、たびたびベテラン介護士の怒号が聞こえてきたといいます。そして最近、ベテランのしごきに耐えきれず、新人介護士が大量離職。今のところ、その穴を埋められずにいるという状況です。
――明らかに人がいないんです、この施設には。だからあの日も、誰も来てくれなかった
株式会社SOKKINが行った『介護士のハラスメント実態調査』によると、53%が「自分がハラスメントを受けた」と回答。また34%が「他の人がハラスメントを受けているのを見た」と回答。介護の現場はハラスメントが起きやすい職場のようです。
経験したハラスメントの内容を尋ねると、最多は「精神的攻撃」で67%。「過大な要求」「セクシャルハラスメント」と続きます。
・「おまえなんかいつでも首にできる」と脅された。(30代女性)
・度々お前は動きがトロいし要領が悪いし価値がないなと言葉でのハラスメントを行っていた。(40代男性)
・理不尽に日常的に怒鳴られた。(30代女性)
※精神的攻撃の回答より一部抜粋
また「ハラスメントが原因で退職したことがあるか」の問いに対しては、「ある」が17%、「退職を検討」が16%、「そのような人を見たことがある」が44%。ハラスメントによる退職は珍しいことではないようです。
「安心できない」と退居も視野に入れていた高橋さん。しかし「すぐに新しいスタッフが来るので」と施設側から説明を受けたといいます。確かに、実際に新しい入居先を見つけ、引っ越すのは大変なこと。今のところ思い悩んでいるといいます。
[参考資料]