定年を迎え、仕事を完全に辞めたら……会社員であれば、そんな夢を一度や二度、語り合ったことがあるでしょう。しかし実際にその夢を実現できるときが来たとき、想定外の事態に直面するケースもあるようです。
定年退職したら軽井沢に別荘を買おう…65歳元部長「退職金3,000万円」を手に夫婦の夢を叶えるつもりが、ひとりぼっちの老後確定の大誤算「何かの間違いでは?」 (※写真はイメージです/PIXTA)

新婚のころ夢みた「軽井沢移住」いよいよ叶えるときが来たと思ったら

伊藤さんには奥さんとずっと話していた夢がありました。

 

――仕事を辞めたら軽井沢に移住をしよう

 

軽井沢は、伊藤さん夫婦が結婚式を挙げた思い出の場所。「森のなかの教会で挙式をしたい」というのが、伊藤さんの奥さんの夢。それを叶えるために色々と見学を繰り返した結果、軽井沢の気候、街並み、雰囲気……すべてが気に入ったといいます。そして「遠い先の話だけど、定年を迎えて仕事を辞めたら軽井沢に移住をしよう」と、夫婦で夢を語り合ったのです。

 

まだ新婚といえる時期にした夫婦の約束。いよいよ、その夢を叶えるときが来たのです。伊藤さん、ひそかに資料を集めたり、不動産会社に問い合わせをしたりして、物件のあたりをつけているのだとか。

 

――退職金が3,000万円ほどあり、それで購入できる状態のいい中古の別荘を見つけました。夫婦で暮らすなら十分かなと。東京の家は、しばらくしたら売却するつもりです

 

奥さんも喜んでくれるに違いない。そう確信して奥さんに話をしたところ、予想もしなかった答えが返ってきたといいます。

 

――軽井沢に移住!? 何よそれ。絶対にいや

――えっ、話しただろう、昔

――そんな新婚当時の話をされても。私たち老後のことなんてちゃんと話し合ったことある?

――……

 

伊藤さんの奥さんのなかには、軽井沢移住の話など遠い記憶。むしろ話をしたことさえすぐに思い出せないものだったのです。さらに

 

――お母さん、今年で88歳でしょ。大変みたいで。しばらく実家に帰って面倒をみることになったわ

――えっ

――しばらくひとり暮らしだけど、大丈夫よね、あなたなら

 

夫婦で軽井沢に移住して穏やかに暮らす……そんな夢が一転、大学生以来のひとり暮らしが確定。

 

――サプライズなんて考えずに、夫婦でもっと老後のことを話し合うべきでしたね

 

奥さんが親の面倒のために実家に戻ってからは、広い家のダイニングで、ぽつんとひとり食事をする毎日。特に趣味らしい趣味もない伊藤さんは、毎日、どのように過ごせばいいのかわからないまま、ときだけが過ぎていくといいます。

 

[参考資料]

内閣府『令和元年度 高齢者の経済生活に関する調査』