不安、憤り……さまざまな思いが交錯する認知症患者の胸の内
かたくなに病院に行くことを拒む父。それでも説得を続け、何とか病院にいったところ、やはり認知症と診断。それでもなお、認知症であることが受け入れ難いということもあるのでしょう。
――最近、物忘れがなくなった
とか
――認知症は治った、治った
などということもしばしば。「認知症であることを受け入れることは大変なことなんだと、父をみていて初めて知りました」と長女と次女。認知症の父親とどのように接したらいいのか、悩むことも多いといいます。それでも症状の進行は緩やかで、日常生活を送るうえでそれほど不都合はなく、たまに「そういえば、お父さんは認知症だったね」と思う程度だったとか。
しかし、状況が一変する事件が。父親が隣町で保護されたと警察から連絡があったのです。
音楽が趣味だという山本さん。数ヵ月に1度、顔見知りのジャズ喫茶で行われるライブに行くのが楽しみでした。この日も普段通り、電車に乗り、ジャズ喫茶に行き、ライブを楽しみ、さあ帰ろうと駅に向かって歩いていたといいます。しかしいくら歩いても駅に辿り着くことができず、困っているところ、警察官に声をかけられ保護され、家族に連絡が入ったという顛末でした。
何度も何度も歩いた道さえも忘れてしまい帰れなくなってしまったことに、大きなショックを受けた山本さん。自宅に帰ってきてからは、ずっと「もう、本当に惨めな有様だ」「もう生きていくのも辛い」と繰り返し、娘たちがいるにも関わらず、涙を流し泣いていたとか。またそんな山本さんに対して、娘たちもどう接するのが正解か、ますますわからなくなったといいます。
2024年9月15日時点、65歳以上人口は3,625万人、また高齢化率も29.3%と、過去最多を記録しました。認知症は年齢共に発症リスクが高くなることで知られていますが、当然、高齢者が多くなれば、それだけ認知症患者が増えるのも確実。推計では認知症者数は2030年に523万人、2040年に584万人、2060年には645.1万人に達するとか。
そのような社会を前に、自身が認知症になったら、ということはもちろん、家族が認知症になったらについても真剣に考えていかなければならないようです。
[参考資料]