多くの企業が採用する60歳定年。そのあとも継続雇用で働き続けるのが一般的で、再雇用制で非正規社員として働き続ける人が多いようです。その場合、定年を迎えた時点で退職金を手にするもの。まとまったお金を手にしてホクホクしていると、銀行から連絡が入るのも定番。そしてこのあと、大ピンチに直面することも、よくあるパターンのようです。
愚かでした…「退職金3,000万円」60歳の定年サラリーマン、銀行の特別待遇に意気揚々。初めて投資に挑戦も「わずか25日」で大後悔のワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

定年退職金あるある…退職金が振り込まれた銀行から1本の電話

平均以上の退職金を手にしてホクホク顔の加藤さん。そんな笑顔が一転する出来事が起きたといいます。きっかけは、退職金が振り込まれた銀行からの連絡。

 

――この度は定年、おめでとうございます。私たちは退職者様向けにさまざまなプランを用意しています。一度、ご説明を……

 

銀行が直々に連絡をしてくることなど、今まで一度もありません。恐縮する気持ちでいっぱいになり、都合をつけて銀行に行ったという加藤さん。約束の日に銀行を訪れると、「加藤様、こちらへ」と別室に通され、お茶まで出てきたといいます。

 

――こんな特別待遇……

 

このあとも、恐縮しっぱなしだったという加藤さん。その場で提案されたのは、「退職金プラン」。破格の高金利の定期預金(6ヵ月)で、投資信託購入が条件というものでした。

 

――新NISA、聞いたことはありますか? 今、普通預金に預けたままはリスクです。分散して運用することをおすすめしています

 

そんな売り文句だったか……加藤さん、少々うろ覚えだといいますが、「銀行さんのいうことだから」と、半分を定期預金、半分で投資信託の購入を決めたといいます。

 

これまで仕事ひと筋だった加藤さん。投資には目もくれず、資産運用といえば貯金一択でした。初めての投資……気分は非常に高揚していたといいます。

 

しかし、週末に金融機関に勤めていた大学の同級生と会ったとき「それは引っかかったな」とひと言。

 

――手数料、高いだろ

 

定期預金の金利は6ヵ月5%、一方で、投資信託の購入手数料は3%。

 

定期預金の利子:1,250万円×5%×(6/12ヵ月)=31万2,500円

投資信託の購入手数料:1,250万円×3%=37万5,000円

 

すでに投資信託購入時の手数料が定期預金の利息を上回っているのです。さらに投資信託の取引の際の手数料も相当高いことがわかりました。

 

――騙されたのか、俺?

――騙されてはいないけど、もう少し考えるべきだったな

 

さらに追い打ちをかける出来事が。銀行での特別待遇に意気揚々だった日から25日、日本中が大騒ぎになった株価の大暴落。投資デビューしたての加藤さんには、あまりに刺激的でした。

 

――もうだめだ、俺は破産してしまう

 

パニックになり、友人に電話をかけた加藤さん。「とりあえず落ち着け」といわれ、冷静さを取り戻したといいます。

 

金融広報中央委員会『金融リテラシー調査2022年』によると、購入時の商品性の理解として、投資信託購入者のうち22.8%が「商品性をあまり理解していなかった」と回答。さらに6.8%は「商品性を理解していなかった」と答えています。投資初心者のなかには「元本が保障されたものではないことすら知らなかった」という人も。資産運用が当たり前になるなか、金融知識が低いまま参入し、大損害を被るケースがあとを絶ちません。

 

――恥ずかしながら……本当に愚かですよね

 

恐縮しっぱなしの加藤さん。「今からでも遅くない」と“お金の勉強”を始めたといいます。

 

[参考資料]

厚生労働省『令和5年高年齢者雇用状況等報告』

厚生労働省『令和5年就労条件総合調査』

金融広報中央委員会『金融リテラシー調査2022年』