(※画像はイメージです/PIXTA)

自由設計の家……CMなどでもよく聞くフレーズです。そのような家に憧れて、いざマイホームを実現しようとする段階になると、「注文住宅にも関わらず、意外と自由にならない」という問題に直面します。そこにあるのは木造住宅ならではの構造とお金の問題。長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。

 

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自由設計に阻む「構造問題」

すでに自由設計で注文住宅を建てたことがある人は感じたことがあるかもしれません。

 

「自由設計といいつつ、できないことがたくさんあって意外と自由じゃないな」

 

こだわりを具体的にイメージにして膨らませている人ほど、設計段階で拍子抜けしてしまうものです。

 

もしこんな夢を持っているとしたらどうでしょうか。

 

グランドピアノを自宅に置くのが夢で、30帖の仕切り壁のない広々としたリビング・ダイニングに、6メートル幅の柱のない大開口が開き、外の自然を感じられるような郊外の家。

 

実はこれを木造住宅で実現するのは技術的に非常に難しいといえます。工夫によって不可能ではありませんが、構造の強度の問題、工法上の問題、断熱や気密の性能の問題、耐震強度の問題などが山積みで、多くの建築業者は顔をしかめるでしょう。そしてやんわりと反対され、計画の見直しを促されます。

 

木造住宅で自由設計をうたっていても、構造的に柱や壁の設置に制限を受けるため、意外と自由にならないのが現実です。正確にいうと、「ほんとうに理想を追求すると、想像を超えて莫大なコストがかかる」といえるかもしれません。多くの人にとって、お金の事情で間取りやデザイン、ひいては理想のライフスタイルが自由にならないのです。

 

 

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マイホームの理想を妥協した理由とは

国土交通省『令和5年住宅市場動向調査』に興味深いデータがあります。令和4年度中(令和4年4月~令和5年3月)に住み替え・建て替え・リフォームを行った世帯に対して、「住宅選択において妥協したもの」という質問に対する回答です。

 

注文住宅の購入において妥協したのは、次の順番でした。

 

①価格

②住宅の広さ

③間取り・部屋数

④住宅のデザイン

 

分譲戸建て住宅ではなく「注文住宅」でありながら、お金の事情で広さ、間取り、デザインに妥協をせざるを得ない実態が見てとれます。その理由は昨今の住宅価格の高騰にあります。

 

国土交通省の「建設工事費デフレーター」によると、木造住宅の建設費について2015年を100とすると2023年に122.2と上昇しています。特にコロナ禍の直前からウッドショック(木材の急激な高騰)に始まり、昨今の燃料費や人件費の高騰、働き方改革などの影響で価格の上昇が止まりません。10年前に職場の先輩が家を購入した価格と、これから購入する価格との差が大きすぎ、驚く人が多いでしょう。特に両親世代の価格の感覚とは想像を絶するレベルの差があるため、激しい反対に遭うケースが少なくありません。これほど戸建て住宅の値段が高くなると、限られた予算のなかでいくつもの妥協を重ねることになるのです。

 

せっかく高額な住宅ローンを借り、多くは定年退職後にも返済を続けます。そこまでして手に入れる家に安易な妥協はしたくないものです。価格と間取りなどの理想を両立するためにはどうしたらいいのでしょうか。

 

まずは木造住宅の代表的な工法の違いから解説していきます。

 

 

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覚えておくべき工法は二種類

代表的な木造住宅の工法には「木造軸組工法」「木造枠組壁工法」があります。

 

木造軸組工法(通称・在来工法)とは

「在来工法」と呼ばれることが多いこの工法は、日本に古くから伝わる技術を改良した家の建て方です。柱に梁を組み合わせて骨組みをつくり、屋根を張ったあとに壁を取り付けて建築します。

 

【メリット】

・施工できる会社が多い

・間取りの自由度が比較的高い

・リフォームや間取り変更がしやすい

・開口部(窓など)を大きく取れる

【デメリット】

・施工期間が長い

・施工品質は職人の技術によって差がある

・費用が高い

・柱の配置で間取りや広さに制限がある

 

「自由設計」をうたう住宅メーカーの多くはこの在来工法を取り入れています。屋根が早い段階でのるため、雨の多い日本に適した工法といえます。

木造枠組壁工法(通称・ツーバイフォー(2×4)工法)とは

ツーバーフォーと呼ばれることが多いこの工法は、在来工法とは異なり柱で支えるのではなく、壁で支える建て方です。壁の枠組みを構成する木材が2インチ×4インチという規格であったため、2×4工法と呼ばれています。

 

【メリット】

・面で構成するため耐震性が高い

・気密・断熱・耐火の性能が高い

・工期が比較的短い

・規格化されているため職人の技術に依存しない

【デメリット】

・間取りの自由度が非常に低い

・開口部を大きくできず窓は小さめ

・リフォーム時に間取り変更ができない

・施工できる会社が少ない

 

木造軸組工法と木造枠組壁工法、どちらにも大きなメリットとデメリットが存在するため、住宅購入の際に多くの人が悩んでしまうポイントです。間取りの自由度という点においては、在来工法に軍配が上がります。しかし前述したように、自由度が高いといっても限度があります。「この柱はどうしても必要」「この梁はどうしても必要」は、設計士との打ち合わせで頻出するワードです。

 

思っている以上に部屋や窓が大きくはならないし、リビングの天井も高くできません。同じ予算のなかで完成した建物を比べると、壁で構成する2×4工法と比べて驚くほど大きな違いを感じないのが現実かもしれません。

 

「間取りをほんとうに自由にするには、鉄骨造か……」と考えるかもしれません。鉄骨造は耐震性に優れ、シロアリに強く、施工品質が安定し、資産価値も落ちにくいという大きなメリットがあります。何より建材の強度が木材よりも高く、材料の寸法も自由に作れるため間取りの自由度につながります。

 

しかし建築コストの高さは木造とは大きく違い、非常に高額な予算が必要です。ここでも予算の事情で手を出しにくいと感じるでしょう。まさに一長一短の工法の違いですが、最近、木造住宅の工法がさらに進化を遂げているようです。間取りの自由度に制限があるという常識を打ち破りつつあります。

 

 

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木造の中高層建築物が続々登場…本当の自由設計の時代へ

大手の建設会社が手がける大型の木造建築が首都圏の各地に続々と登場しています。

 

三井不動産は2024年1月に「日本橋本町1丁目3番計画(仮称)」を着工。これは木造と鉄骨造のハイブリッドで、地上18階建てのオフィスビルを建築するという計画です。また、大林組はオーストラリアのシドニーにおいて、地上39階、高さ182mの高層ビルを受注しました。こちらは7階までがRC造(鉄筋コンクリート)、7階以上が木造と鉄骨造というハイブリッドです。野村不動産も東京都神田に14階建てのマンションを建てましたが、こちらも柱と壁の構造材に木材を使用した木造ハイブリッド方式となります。

 

なぜ今、木造の中高層建築物が注目されているのでしょうか。

 

理由はふたつ挙げられます。ひとつは「脱炭素」、もうひとつは「人工林の高齢化」です。気候変動問題の解決に向けて、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすると宣言したのを覚えている人も多いでしょう。これは二酸化炭素など温室効果ガスの「排出量」から、森林などによる「吸収量」を差し引いた合計をゼロにするという意味です。

 

しかしその「吸収」を担う木の高齢化が問題となっているのです。日本では樹齢50年を過ぎた人工林が増えていることが原因で、年々二酸化炭素の吸収量が減り続けています。そこで古い木を伐採して住宅に使い、新しい木を植樹していく必要があります。また鉄骨と比べ建材の製造段階で排出する二酸化炭素も減らすことができます。まさに環境問題への解決策のひとつが、木造の建築物なのです。

 

上記に挙げたのはいずれも「木材も使う」という鉄骨や鉄筋とのハイブリッド建築物ですが、なかにはオフィスビルや学校が入るビルを「純木造」で建てるという試みも登場しています。住宅メーカーであるAQ Groupはさいたま市に8階建ての本社ビルを建築しました。住宅用プレカット工場で加工された木材を使用し、特殊な金物を使わず、多くの建材がすでに普及している建材で構成されているのが特徴です。特に住宅メーカーによる木造での中高層建築物への挑戦は、一般消費者の住宅性能の向上につながります。

 

AQ Groupで本社ビルの建設時に開発した耐力壁は、一般住宅に使うことでこれまでの「間取りの不自由さ」「柱の配置の不自由さ」を解決するきっかけになっています。現状、一般住宅の開口窓サイズは幅約3.6m、天井高約2.4mですが、この耐力壁を使用することで、開口窓は幅約7.2m、天井高は約2.9mに広げることができ、これまでにない大空間が実現できるのです。

 

今後も木造建築物は技術革新が急速に進んでいくと予想されています。住宅においてもコストを抑えながら、ほんとうの自由設計で理想を実現できるようになっていくことでしょう。つまり家づくりに妥協をする時代は終わりを告げようとしているのです。

 

 

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