広いマイホームも高齢になるとその維持だけでも大変で、さらにバリアフリーでないと暮らすのもひと苦労。住み替えを考えるケースも珍しくありません。そのとき、有力な選択肢になるのが老人ホーム。さまざまな種類がありますが、きちんと違いを理解していないと、思わぬ事態に直面することもあるようです。
苦しい、助けて!…年金16万円・71歳高齢母「老人ホーム」から緊急搬送。45歳ひとり娘、いまさら知る真実に「すべて私の責任です」 (※写真はイメージです/PIXTA)

母娘、見学をして決めた「住宅型有料老人ホーム」…介護も医療も充実という思い込み

老人ホームは、介護や医療が必要になった人たちが入るところで、家族から見放された高齢者が入る施設というイメージがありましたが、調べてみると、そんなのは昔の話。今は健康な人でも入れる施設があり、またホテルのような明るい雰囲気のホームも多いことがわかりました。

 

また老人ホームであれば、万が一、介護が必要になったときも安心。高齢の母が住むには、娘としても安心できます。

 

一気に第一候補となった老人ホーム。浩美さんがいくつかピックアップして、母娘で見学。いくつかの候補のなかから、家賃の前払いとなる入居一時金が800万円、月額費用が月16万円の洋子さんの年金で賄える、住宅型老人ホームへの入居を決めたといいます。

 

――老人ホームなら万が一のときでも安心だし、住宅型の老人ホームは比較的自由で、それもまだまだ元気な母にはピッタリ。新設の施設だから設備もキレイ。入居を決めたポイントです

 

母も私も何も不安も心配もない……そう思っていた矢先、ある事件が。洋子さん、突然、発作を起こしましたが施設で対応できず、緊急搬送されたというのです。

 

病院に駆けつける浩美さん。そこで運ばれるまでの経緯を聞くことになります。洋子さんは、ダイニングで発作が起きた際、「苦しい、助けて!」と叫び助けを呼んだものの、当時、施設には看護師がおらず、手当てが遅れてしまったとのこと。命に別条はないのは、不幸中の幸いでした。

 

――看護師さんがいないなんて、なんで?

 

安心して母を預けられると思っていたのに……しかしそこで浩美さんは、老人ホームの真実を知ることになります。

 

介護サービスを提供する施設では職員の配置基準が決められており、要介護1以上の入居者3人に対し、介護・看護職員=直接処遇職員1名以上と決まっています。これは「3:1」として知られ、入居者40名であれば直接処遇職員は14人はいないといけないという計算になります。

 

しかし住宅型有料老人ホームは、介護サービスは在宅系の介護事業所から受けることになっており、ホーム自体は介護保険の事業者ではありません。つまり職員の配置基準外。実際に住宅型有料老人ホームのなかには、少ないながらも看護職員ゼロ人という施設も。「老人ホームなら介護も医療も充実」と考えている人にとって、思わぬ落とし穴になります。

 

もちろん、充実した介護・医療体制をうたい文句とする住宅型有料老人ホームも多いので一概にいうことはできません。しかし施設ごとに異なる基準を理解し、そのうえで職員の配置状況について確認する必要があるのです。

 

――そんな基本的なことを知らず……母が大変な思いをしたのは私の責任だ

 

まずは母の回復を待って、この先どうするか、話をしようと考えているといいます。

 

[参考資料]

株式会社LIFULL senior『住み替え先選びのポイントや探し方についてのアンケート調査』

厚生労働省『人員配置基準等 (介護人材の確保と介護現場の生産性の向上)』