年金の繰上げで「受取額は月30万円に」…それでも後悔してしまう理由
このような、1ヵ月あたりの受取額を増やすことのできる「年金の繰下げ受給」。年金への依存度の高い高齢者にとって、生活を安定させられると、昨今は選択する人が増加傾向。2022年、老齢厚生年金の受給権者2,746万3,864人のうち、繰下げ受給者は37万4,481人。選択率は1.3%。この5年で18.4万人、割合で0.6ポイント増加しています。
――よし、この流れに乗って自分も
そう短絡的に決めるのは、考えもの。年金の繰下げ受給を選び、72歳から年金を受け取り始めたという伊藤明さん(仮名)。「もともと働けるうちは働くつもりだった」という伊藤さん。学校を卒業して以来40年間勤めていた会社は60歳で定年。雇用延長制度で65歳まで働いたのち、知り合いの会社で非正規として7年間働きました。
65歳で受け取るはずだった老齢年金は18万円。72歳まで繰り下げたことで、受取額は1.588倍に。さらに65歳から72歳まで働いたことで、年金はさらに増え、受取額は30万円を超えるといいます。年金の手取り額は額面の85~90%といわれていますが、伊藤さんの受取額も月25万円を超えるとか。これだけの年金があれば、もちろん「年金だけで暮らせる」といっても過言ではありません。
――仕事を辞めたら、釣りに行ったり、たまに温泉なんか行ったりして、のんびり過ごしたいと考えていたんだよね
そんな夢を仕事を辞めた今、かなえているのかといえば……まったくそんなことはないといいます。実は伊藤さん、仕事を辞めたのは持病を悪化させて、仕事を続けるのが困難になったから。
――月・水・金は病院に行かないといけないから、とても泊まりがけでどこかに行こうという気にもならない
医療費については十分な貯蓄もあり、また年金が増額になったことで「何の心配もない」といいます。「お金の心配がないことは幸せなこと」というものの、働き続けたこと、年金の繰下げをしたことについては、正解だったのかどうかわからないといいます。
――年金なんて増えなくてもいいから、65歳で受け取って、趣味なりなんなり楽しめばよかったよ
もちろん、その選択が最良だったのかも、結局のところわかりません。確かなのは「年金の繰下げ受給」を選択をして、「本当によかった」と喜んでいる人もいれば、伊藤さんのように「やめればよかった」と後悔している人もいるということ。それぞれの声に耳を傾け、決断するしかないようです。
[参考資料]