高齢者に「人生の後悔」について聞いたところ、上位に入ったのが「家族との時間を大切にすればよかった」というもの。近いからこそ本音を聞くことができず、「もっとあのとき……」と悔やむことは多いようです。
毎日、後悔して泣いてます…年金16万円・75歳母「老人ホーム」で最期を看取った51歳ひとり娘の無念 (※写真はイメージです/PIXTA)

ひとり娘「豪華な老人ホーム」への入居をサポートしたが…

内藤さん、小学生だった頃に父親を亡くしましたが、母親は内藤さんを大学まで通わせ、さらには海外留学までさせてくれたといいます。

 

――お父さんが生きていれば、そうしたと思うから

 

母親の口癖だったといいます。大学入学と共に上京し、1人暮らしを始めた内藤さん。必然的に実家には母親1人に。以降、電話やメールで頻繁にコミュニケーションを取る間柄であったものの、顔を合わせるのはお盆と正月くらいだったといいます。

 

状況が変わったのは、母親が70歳だったときのこと。骨折を機に、移動の際には足を引きずるように。このような状態で段差の多い実家での暮らしは不便だろう……そこで内藤さんが提案したのが、「東京の老人ホームに入るのはどうかしら?」というものでした。

 

――母の性格から、同居を提案しても気を遣ってイヤというと思った

 

と内藤さん。そんなときにテレビで観たのが、いまどきの老人ホームの特集。老人ホームといえば、行き先のない高齢者が入居する“姥捨て山”、そんなイメージをもっていましたが、テレビに映っていたのは、そのようなイメージは一切ない、豪華な老人ホーム。そのホームのなかには、麻雀専用の部屋があったり、カラオケルームがあったり、ライブラリーがあったりと設備が充実。内藤さん自身も「(今でも)こんなところに住めたら楽しいわね」と思ったといいます。

 

そこで問い合わせてみると、やはり豪華な老人ホームだけあり、高額の入居費用が必要。母親の年金は月16万円程度と聞いています。「私も費用を負担すれば、お母さん、ここで暮らせるかな……」そう思い、母親に話をしたといいます。

 

当初、母親は「いいよ、そんな豪華なところ」と断ったといいますが、「見学だけ行ってみない?」と誘い、一緒に見学することに。実際に見学すると、テレビで紹介されていた以上に素敵で、すっかり気に入った内藤さん。しかも医療体制も整い、看取りも可能というのも安心でした。

 

「どうお母さん。ここなら私のうちからも近いし、いまよりも会いにいけるし。何よりも素敵じゃない」とノリノリでいうと、「そんなにいうなら……」と首を縦にふった母親。こうして、内藤さんの母親は実家を引き払い上京。内藤さんが一目惚れした老人ホームに入居することになったのです。

 

それから5年。母親は持病を悪化させ、75歳で急逝。突然のことにショックを受けるも、豪華な老人ホーム生活をさせることができてよかった」という満足感もあったという内藤さん。

 

葬儀では、ホームの関係者もたくさん参列してくれたといいます。そのなかのひとり、ホームの入居者だという女性から話を聞き、抱いていた満足感は呆気なく崩れていったといいます。

 

母親が入居した当初から仲良くしていたという女性。母親との楽しいホーム生活を話してくれたといいます。しかし

 

――でも一度でもいいから、故郷に連れて行ってあげたかったわね

 

と女性。「えっ!?」と内藤さんが聞くと、

 

――聞いたことなかった? やっぱり、故郷が恋しい。死ぬまでに一度は帰りたいっていっていたでしょ

 

もう戻るつもりはないから、母親は自宅も処分したと思っていた内藤さんには初耳でした。まさかそんな思いを抱いていたとは。そのような思いは、一度も聞いたことがありませんでした。

 

――そう、きっと言い難かったのね。いつもあなたのこと、褒めていたし、入居費用も出してくれていると感謝もしていたし

 

「母は、自分に本当の胸のうちを話してくれなかった……」。それは娘を想ってのことだったかもしれませんが、それでももっと母親との時間を大切にしていれば聞けたことだったかもしれません。毎日、母の遺影に手を合わせるたびに、後悔から涙が出てくるという内藤さん。

 

――本当に母にすべきことは何だったんだろう

 

自問自答が続きます。

 

[参考資料]

公益財団法人生命保険文化センターが60歳以上の男女に聞いた『2023年度ライフマネジメントに関する高年齢層の意識調査』